そよ風 note
腰痛と腹筋 その② 筋力について
MVC(Maximum Voluntary Contraction)とは、人が最大努力で発揮する時の筋力(最大随意収縮)です。
現在わかっていることは、『腰痛の結果として、体幹の筋力が十分に発揮できなくなる可能性がある』ということだけですが、ここからも以下の『神話(仮説)』が誕生します。
1)体幹筋の低下が、腰痛につながる可能性がある。
2)体幹の筋力を高めると、腰痛が軽減される。
では、脊椎を安定させるためには、体幹の筋肉はどのくらい収縮する必要があるのでしょうか?
その答えは『ほとんど必要ではない』ようです。
実は、立っている(立位)時や歩いている時、体幹の筋肉はほとんど活動しておらず、立位では深部脊柱起立筋、腰方形筋(背中や腰の筋肉)は事実上、活動していないようです。
立位では体幹の屈筋(身体の前面の筋肉)と伸筋(身体の後面の筋肉)の非常に低いレベル(1%未満のMVC)の収縮によって安定化が達成され、約15kgの物を持ち上げる際でもMVCはわずか1.5%増加するだけです。
このように収縮レベルが低いということは、筋力の低下が脊椎の安定化にとって問題にならないことを示しています。
機能的な動作に必要な収縮がこのような低いレベルであるにも関わらず、なぜ筋力エクササイズをすすめるのでしょうか?
ほとんどの人は、このような低いレベルの活動をコントロールすることは不可能であり、意識することもできません。
たとえ意識できると思っていても、安定化に必要なレベルをはるかに超えた収縮が起こっているはずです。
日常生活やスポーツ活動において、ほかのすべての筋肉から独立して動作する『コア(体幹筋)群』が存在するかは疑問です。
・このような分類は解剖学的なものであり、機能的な意味はありません。
・いかなる運動も、筋肉の使用範囲は広範囲におよび、全身に影響します。
・特定の筋肉を、意識的に収縮させることは不可能です。
(例えば、腹横筋だけを収縮させることなどできません)
手を口に持っていく場合、脳は大胸筋や上腕二頭筋を収縮させることよりも、手を口に持っていくと「考える」のです。
体幹エクササイズと一般的なエクササイズを比較した研究では、どちらのアプローチも同じように効果的であることが証明されていますが、これは脊椎の安定化による効果よりも、運動が患者さんにもたらす『ポジティブな効果』によるものである、ということです。
現在では、患者さん自身が好む運動やより楽しめる運動を提供することが推奨されています。
もちろん、体幹エクササイズでも構いませんが、ほかの運動と同程度の効果しかないことを伝える必要があると、論文の著者は言っています。