そよ風 note
腰痛と画像検査
近年、『椎間板ヘルニア(頚椎および腰椎)』『脊柱管狭窄症』『分離症やすべり症』『変形性脊椎症』などの 構造的な異常が、痛みやしびれなどの症状とは必ずしも直結しない(直ちに症状と結びつけることはできない)ことが明らかになってきました。
例えば、MRIで椎間板ヘルニアが見つかっても、まったく無症状の人がいる一方で、強い痛みを訴える人もいます。
この事実は、「画像上の異常 = 痛みの原因」とは一概に言えないことを示しています。
しかし現在でも、レントゲンやMRIの画像で見つかった構造的な異常を、そのまま症状の原因と捉える傾向が強く残っています。
その背景には『構造的な異常(元の状態には戻らない変化)が、痛みやしびれの原因です』と説明したほうが、慢性的な症状が思うように改善がみられない場合でも納得しやすいことが挙げられます。また、治療(手術)や通院に対する患者さんの理解や同意を得やすいこともあるでしょう。
以下では、整形外科やペインクリニックの先生方の著書から一部を引用し、その内容にあわせて(私と私が施術した患者さんの)画像を供覧しています。ぜひ、参考にしてください。
画像診断の価値と課題
⚫︎ 脊椎画像検査は過剰使用
約1/4は不適切
⚫︎ 椎間関節炎は腰痛とは無関係
有痛性の椎間関節を同定できる画像検査はない
⚫︎ 不適切な画像検査と外科的治療や注射の実施率上昇には関連あり
⚫︎ プライマリ・ケア医に不要な検査
1番目に、発症6週間以内の腰痛に対する画像検査
(神経障害や骨髄炎などが疑われる場合は除く)
⚫︎ M R I
・腰痛と椎間板変性との間に関連性なし
腰痛経験者の47%は正常なMRI
・有痛性のヘルニアと無症状のヘルニアでは緩和時間と椎間板変性の程度が異なる
・MRIの画像で新しい腰痛エピソードの説明がつくことは稀
⚫︎ 腰痛患者のX線写真、最新の画像検査が患者のアウトカム(結果)の改善に結びつかない
(米国内科学会の声明)
⚫︎ 最新の画像検査の相当多くが患者の治療に限定的な価値しかない
⚫︎ 画像装置を自分で持つ医師による画像検査は、治療期間や費用のうえで利点に関連しない
⚫︎ 画像装置を備えた医師は、患者に画像検査を受けさせる可能性が高い
⚫︎ MRI撮像はその後の治療に大きく影響する
⚫︎ MRIを所有する医師は患者に脊椎手術を受けさせることが多い
◻︎ 参考文献 ◻︎
「腰痛」 第2版 医学書院
画像検査で 「わかること」 と 「わからないこと」
3ヶ月ほど前から、左腰 〜 左脚の痛み(歩行困難・10分も歩くと脚が痛くなる)でお困りの60歳代の女性が山梨から来られている。
症状の始まりは去年の春。
ある日突然腰痛がひどくなり整形外科を受診したところ、レントゲン検査の結果「脊椎すべり症 」 と診断されたそうだ。
脊椎すべり症は、レントゲンを見ればすぐにわかりますが、それがいつからすべっているのか(腰痛がひどくなった日なのか、何年も前からなのか)はわかりません。
それはすべりに限らず、背骨の変形や椎間板の狭小化、ヘルニアや狭窄も同じです。
圧迫骨折でさえ、わかりにくいと言われています。
その後はしばらく小康状態だったが、今年の1月に再び腰の痛みがひどくなり、今回は歩くことも困難になって整形外科を受診したところ、今度は「狭窄症」と「すべり症」と診断されたそうだ。
その後はペインクリニックにも通うが最後に受診した整形外科では、首(?)と 腰 の 「レントゲン と C T(?)」と 「筋電図(?)」 の結果、『あなたは首と腰が悪いが、まず首を手術して様子をみましょう』と言われ、友人(私の患者さん)に話したところ、私を紹介されたとのことだった。
しまだに来られた時は、10分も歩くと脚が痛くて歩行も困難だったが
・9月13日にいただいたメッセージ
1ヶ月後には、10,000歩(2時間近く)も歩けるようになっている。
・10月13日にいただいたメッセージ
メッセージは患者さんの許可を得て掲載
この女性が、腰痛と脚の痛みでほとんど出歩けなかったことを知る周りの人は、この女性がスタスタ歩いているとびっくりして声をかけてくるという。
レントゲンやMRIは病理所見(骨折や腫瘍など)を診るもので、痛みやしびれ(患者さんが自覚する症状)を読影できるものではありません。
レントゲンやMRIで背骨の変形や椎間板の狭小化、すべりや分離、ヘルニアや狭窄などが確認できたとしても、その人の症状(腰が痛いのか、脚がしびれているのか)はわからないのです。
「腰痛」第2版(医学書院)には、レントゲン(単純X線)写真について、以下のように書いてあります。
単純X線写真は、外来診療で最も用いられている画像である。しかし、単純X線写真は、非特異的腰痛の診断にはほとんど意味がない。
現時点での退行性疾患の診断における単純X線診断の位置付けは限定的なもので、感染性疾患などを含む脊椎炎、骨折、あるいは腫瘍のような重篤な病態を否定するためにあると言ってよい。
また
横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック 診療教授 の北原雅樹医師は、著書「日本の腰痛 誤診確率 80%」の中で
・痛み治療、特に腰痛の場合、レントゲンはほとんど意味がありません。レントゲン検査に意味があるのは、骨折などの場合です。
・欧米では交通事故のときなど、骨折などを調べるのに急を要する場合以外はレントゲンを撮ることはまずありません。
・急性、慢性を問わず、私は腰痛の患者さんのレントゲン写真は撮りません。意味がないからです。痛みはレントゲンには写りません。
・・・(もう一点、レントゲンによる被曝の問題もあります。)
・痛い人、痛くない人、1000人のレントゲン写真を撮って専門医に見せたとしても、この人には痛みがある、この人にはない、ということはわかりません。
と書かれている。
私の腰椎(L5/S1)にはヘルニアがありますが、慢性腰痛も脚のしびれもありません。
私は、自分の腰のMRIが見たかったので、嘘の症状(腰が痛くて右脚がしびれる)を告げてある病院を受診したとき
私のMRIを読影してくれた先生は (お忙しい中、申し訳ありませんでした・・・)
『椎間板ヘルニアですね』『坐骨神経痛ですね』と説明してくれたが
『あなた、本当は腰痛くないよね?』『脚もしびれてないよね?』とは言わなかった。
ということです。
腰痛にレントゲン検査が必要な時
ー 単純X線写真撮影の適用 ー
1.外傷後に高度な腰痛が発症
2.安静時における高度な腰痛や下肢痛
3.骨粗鬆症や転移性脊椎腫瘍などを疑わせる既往や症状を有るす場合
4.ステロイドの服用者、アルコール多飲者、および癌の既往例で、外傷がなく突然に下肢痛が発生した場合
5.撮影を希望する症例(過度に神経質な患者などでは単純X線撮影を行わないと、十分な診療を受けていないと誤解する可能性がある)
6.交通事故や労災で補償が関係している場合
7.強直性脊椎炎を疑わせる既往歴や理学的所見を有する症例(仙腸関節も撮影する)
8.脊椎所見から明かな脊椎変形が疑われる症例
9.高度な脊椎所見(著名な不撓性と可動域制限)や神経障害が認められる症例(転移性脊椎腫瘍を除外診断することが要求される)
10.原因不明の急激な体重減少
11.高い発熱(38℃以上)
◻︎ 参考文献 ◻︎
「腰痛」第2版 医学書院
レッドフラッグ (危ない腰痛) が認められない時は
・レッドフラッグ(危ない腰痛)が認められない限り、腰痛発症後4〜6週間までの画像検査に臨床的メリットはない。
・放射線診断(エックス線とCTスキャン)には放射被曝に伴うリスクがあるため、診断と治療に不可欠な場合を除けば、避けるべきである。
・エックス線撮影やMRIなどの画像検査では、症状のない健常者の多くに異常所見が認められる。
・腰痛も坐骨神経痛も未経験の健常者における単純エックス線撮影では、50歳以上の65%に異常所見が認められ、MRIでは60歳未満の20%に椎間板ヘルニア、33%に椎間板異常が認められる。
・年齢と共に椎間板ヘルニアが見つかる頻度が高くなるため、手術を検討する際は、加齢に伴うMRI所見と臨床症状との関連性の確認が重要である。
◻︎文献◻︎
ニュージーランド事故補償公団(2010 Printed Japan)「急性腰痛と危険因子ガイド」 春秋社