そよ風 note
腰痛とレントゲン その①
『単純X線写真は、外来診療で最も用いられている画像である。しかし、単純X線写真は、非特異的腰痛の診断にはほとんど意味がない。現時点での退行性変性の診断における単純X線撮影の位置付けは限定的なもので、感染症疾患などを含む脊椎炎、骨折、あるいは腫瘍のような重篤な病態を否定するためにあると言ってよい。』
菊池臣一編著『腰痛 第2版』より (医学書院 2014)
慢性腰痛のない
しまだのレントゲン
腰は右凸側弯して、骨盤は左右の高さも違います。
腰の骨は変形して、椎間板も狭くなっています。
私の腰椎には退行性変性(背骨の変形や椎間板の狭まり)がみられますが、慢性腰痛ではありません。
このような変性は、腰痛のない人にも普通にみられます。
腰痛の方に限った所見(腰痛の原因)ではありません。
レントゲン撮影は、腰痛の診断にはほとんど意味がありませんが、骨折や癌などの重篤な疾患はないと安心できる大きな意味があります。
以下のような重篤な疾患を示唆する症状が1つでもある時は、レントゲン撮影が必要です。
すぐに病院を受診してください。
・外傷後に発生した激しい腰痛(高所からの落下、尻餅など)
・夜間や横になっていても続く激しい腰痛
・ステロイドの服用者、癌の病歴
・原因不明の体重減少
・高い発熱(38℃以上)
・血尿
以下はごく稀です。この症状は「痛み」ではなく「神経の麻痺」です。
・閉尿、便失禁
・歩行困難、お尻(肛門)周りの麻痺
腰痛とレントゲン その②
『痛い人、痛くない人、1000人のレントゲン写真を撮って専門医に見せたとしても、この人には痛みがある、この人にはない、ということはわかりません。』
北原雅樹著『日本の腰痛 誤診確率80%』より (集英社インターナショナル 2018)
人それぞれの腰椎
老若男女、人それぞれの腰椎が写っています。
この中には、腰痛の方も腰痛ではない方もいますが、どなたが腰痛なのかは(ご本人と私以外)誰にもわかりません。
*圧迫骨折の方もいますが、陳旧性の(古い)もので痛みはありません。
この写真を専門医に見てもらっても、この中で誰が腰痛なのかはわからないのです。
椎間板ヘルニアとMRI
『MRIの出現により、脊椎の異常診断能力は向上した。只、無症候例に高頻度な形態学的異常も少なくないことも明らかになった。最近では腰痛出現後に撮影されたMRI所見が、腰痛を説明するような新たな所見である可能性は低いことが指摘されている。』
菊池臣一編著『腰痛 第2版』より (医学書院 2014)
『椎間板ヘルニアが画像で認められても、それが必ずしも痛みを起こしているわけではないことが明らかになってきているのです。』
菊池臣一著『腰痛のナゼとナゾ』より (メディカルトリビューン 2011)
『私は巨大なヘルニアを持っていますが、腰痛とは無縁の生活を送っているのです。私だけ特別に腰痛を起こさないわけではありません。』
菊池臣一著『腰痛のナゼとナゾ』より (メディカルトリビューン 2011)
慢性腰痛も脚のしびれもない
しまだのMRI
私もヘルニアを持っていますが、慢性腰痛ではありません。
レントゲン同様、専門医にこの画像を見せても、腰痛と脚のしびれの有無はわかりません。
For many years now, MRI scans have been the ultimate in futuristic medicine. But while these machines are miraculous in some ways, they can be worse than useless for diagnosing low back pain.
「MRIは未来の医療と言われて久しい。この機械はある意味では奇跡的なものですが、腰痛の診断には役に立たないこともあります。」
Many people with no pain have all kinds of things “wrong” with their backs, and vice versa. Many problems revealed by scans that seem like “obvious” problems are not.And so the diagnosis and treatment often goes spinning off in the wrong direction.
「痛みのない人の中には、脊椎に様々な問題を抱えている人が多く、その逆もまた然りです。スキャンによって明らかになったことの多くは、一見「明らかな」問題のように見えますが、そうではありません。そのため、診断や治療が間違った方向に空回りしてしまうことが多いのです。」
Fifty-six patients with uncomplicated lumbar disc prolapse were carefully assessed, finding almost no correlation at all between symptoms and the size and position of the bulge.
「合併症のない腰椎椎間板脱出(ヘルニア)の患者56人を注意深く評価したところ、症状と膨隆の大きさや位置との間にほとんど相関関係は見られませんでした。」
There is no direct correlation between the size or position of the disc prolapse and a patient's symptoms. The symptoms experienced by patients should be the primary concern in deciding to perform discectomy.
「椎間板脱出(ヘルニア)の大きさや位置と患者の症状には直接的な相関関係はありません。椎間板摘出術を行うかどうかは、患者が経験する症状を第一に考えるべきです。」
腰の痛みと背骨の変形
供覧しているレントゲンは、慢性的な腰痛でお困りだった女性(69歳)の腰部です。
※ レントゲンは医師の協力により撮影されたものです。
ご夫婦でラーメン屋さんを営んでいるが、『腰が痛くて立っているのが辛い』『立っていられなくなる』『仕事にならない』とのことだった。
整形外科、整骨、鍼灸、整体、カイロ、マッサージなど 22ヶ所 に行ったが、期待する効果を得ることができず、私が「23ヶ所目だ」とおっしゃっていた。
このレントゲン ① は、私が施術を開始した(腰がとても痛い)時のレントゲンです。
女性は『整形外科をいくつも行った(いつも同じ説明だった)ので覚えてしまった』と、以下のように私に説明してくれた。
○:『背骨が変形して、棘のようになっている。』
※ ○ 以外も同じように変形しています。これは「骨棘(こつきょく)」と言い、背骨や膝の関節にもよくある変形です。
↑:『椎間板が(2ヶ所)潰れている。』
※ これは「椎間板の狭小化」と言います。
そして。
『これは老化現象なので治らない。痛み止めを飲みながら、うまく付き合っていくしかない。』とのこと。
ところが。
施術を開始して2~3ヶ月ほどで改善が見られ、半年後には、ほぼ痛みなく1日立っていられるようになります。
本題はここからです。
その後、痛みが落ち着いても定期的に施術を受けにいらしていたが
施術開始から1年後(腰痛をほぼ忘れた時)の写真が、こちら ② です。
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① と比べてみましょう。
レントゲン ①(腰がとても痛い時)→ ②(腰痛をほぼ忘れた時)では、複数の医師から腰痛の原因と説明された、背骨の変形と椎間板の狭小化は全く変化(改善)していませんが、痛みは大きく変化(改善)しています。
1年経過しているので変形も進んでいるのかもしれませんが、たった1年では分かりません。
なぜなら、このような変形は、5年、10年、15年、20年・・・と時間をかけて、少しずつ変化していくからです。
この女性も、腰痛がなかった時でも、背骨の変形はすでに始まっていたはずです。
背骨と椎間板(特に腰椎)は、程度の差こそあれ、加齢とともに誰でも変形します。
私も、ご多分に漏れず、背骨は変形し椎間板は狭小化しています。
おまけに、その箇所はヘルニアですが、慢性腰痛も脚のしびれもありません。
加齢による背骨の変形や椎間板の狭小化は、ぎっくり腰や慢性腰痛の原因ではありません。
慢性的な腰痛で困っていない方は病院を受診する(レントゲンを撮る)ことがないので、自分の背骨が変形していることを知りません。
中年期以降に腰のレントゲンを撮れば「誰でも、それなりの変形がみられる」ということです。