そよ風 note
Tさんが感じた 『いつもと違う頭痛』
先日、Tさん(50歳代・女性)が半年ぶりに来室された。
Tさんは、10年ほど前から(頭痛や首肩こりなどのために)定期的に施術を受けていただいている。
今回は少し間が空いていたので「去年の8月から、半年ぶりですね」と声をおかけすると
「実は … 」と
去年の10月に『硬膜動静脈瘻 (こうまくどうじょうみゃくろう)』に対する手術を受けていたことを話していただいた。
『硬膜動静脈瘻は、脳を保護するように包んでいる硬膜に発生する動脈と静脈の異常短絡(動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接繋がってしまう異常)を生じる比較的稀な疾患です。うっ血性静脈環流障害(静脈の流れが悪くなる状態)による脳障害や脳出血を生じます。』
ー 山梨大学医学部附属病院 脳神経外科のHPより ー
Tさんからは『私の経験が何かお役に立てればうれしいです』と掲載の許可をいただいたので、Tさんが『いつもと違う頭痛』を感じた去年の8月から『硬膜動静脈瘻の診断 〜 手術 〜 現在』までをご紹介します。
頭痛持ちの方もそうではない方も、ぜひ参考にしてください。
ー 2024年 8月 ー
Tさんが『いつもと違う頭痛』を3回も感じたのは、去年8月のお盆ウィーク。
1回目:『ガン・ガン・ガン』という『いつもと違う頭痛』を5分ほど感じた。
2回目:1回目の頭痛から1〜2日後、前回同様の頭痛をより長く感じた。
3回目:3回目の頭痛はなかなか良くならず、1日ずっと痛かったので、かなり不安になった。
その後、すぐにかかりつけの頭痛外来を受診したが『1回で終わっていたら、受診していなかったと思う』とおっしゃっていた。
頭痛外来でのMRI検査の結果、硬膜動静脈瘻を発症していることがわかり、大学病院を紹介される。
頭痛以外には『ザ・ザ・ザ 』と『血液が流れる音のような耳鳴り(右側)』を感じたそうだ。
『硬膜動静脈瘻では、その部位、異常血管を流れる血液の量、異常血管が出ていく静脈洞の狭窄の有無などによって、症状が変わってきます。硬膜の動脈から静脈ないし静脈洞へ速い血流が流れるので、これが耳鳴りとして感じられることがあります。』
ー 慶應義塾大学病院 脳神経外科教室のHPより ー
ー 2024年 10月 ー
紹介先の大学病院でおこなわれた血管カテーテルの造影検査では、本来なら写ることのない静脈が写っていて、脳出血を起こしてもおかしくない状態だった。
そして、全身麻酔によるカテーテル(プラチナコイルを静脈に留置して閉塞させる)治療を受ける。
医師からは10時間かかるかもしれないと言われたが、6時間で無事終了する。
ー 術後3ヶ月の現在 ー
『ガン・ガン・ガン』の頭痛も『ザ・ザ・ザ』の耳鳴りもなく、カテーテルの検査でも問題なし。
Tさんからお聞きした話では、年間300〜400人くらいの方が発症する稀な疾患で、50歳代の女性に多いとのことだった。
後天的だがはっきりとした原因はわからず、術後や外傷後に発症することがあるそうだ。(Tさんの発症原因もわからない)
そして。
Tさんが『いつもと違う頭痛』を感じることができたことと『リスクの高い検査と手術』を無事に終えることができたことについても、次のように話していただいた。
『いつもと違う頭痛を感じたのは、父の新盆だったんです。カテーテルの検査の日も、手術の日も、父の命日の24日という偶然でした』
『24という数字が父からのメッセージのような気がしました。父に助けられたのだと思います』
『これは、非科学的ですが、こういう不思議な世界もあるのかもな、と思います』
『硬膜動静脈瘻』という疾患を知らなかった私には、大変勉強になりました。
そして「偶然は必然」の意味が改めてよくわかりました。
貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
頭痛を表現する言葉で『いつもと違う頭痛』は『重大な(命に関わる)頭痛』である可能性が高いと言われています。
まさにTさんも『いつもと違う頭痛』だと感じたのです。
痛みの程度や感じ方は、ご本人にしかわかりません。
たとえ1回でも『いつもと違う頭痛』を感じたら『頭痛専門外来』または『脳神経外科』を受診してください。
『硬膜動静脈瘻』について詳しく知りたい方は、以下のHPをご覧ください。
『キートリガーポイント』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』
トリガーポイントが形成された筋・筋膜には局所的に緊張が亢進した領域があり、そこを触診すると痛みを感じる『トリガーポイント』が見つかります。(時には口の中にもです)
ところが、トリガーポイントは患者さんが症状を感じる領域にあるとはかぎりません。
したがって、トリガーポイントを探す時には、患者さんが症状を感じている領域だけではなく、離れた領域(筋膜の連鎖)も考慮する必要があります。
最初のトリガーポイント『キートリガーポイント』に対して適切なケアを受けられないでいると、そのトリガーポイントがきっかけとなって、二次的に新たなトリガーポイント『サテライト(キートリガーポイントから離れたところにある)トリガーポイント』が形成されて新たな症状が現れてきます。
たとえば、『胸鎖乳突筋(首)』にキートリガーポイントが形成されると『側頭筋(頭)』『咬筋(頬)』『眼輪筋(目のまわり)』『前頭筋(額)』などにサテライトトリガーポイントが形成されます。
『キートリガーポイン』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』の症例として
・『以前は 首・肩こり だけだったのに』 ⇨ 『最近は 頭痛(耳鳴り、めまい)も感じる』
・『以前は 首・肩こり だけだったのに』 ⇨ 『最近は 腕も痛い』
・『以前は 腰痛 だけだったのに』 ⇨ 『最近は 脚の付け根や膝も痛い』
この傾向は、時間が経てば経つほど強くなります。
サテライトトリガーポイントは、キートリガーポイントよりも新しいために症状が強く現れる傾向があるので、治療のポイントとして選択されやすいです。
しかし、サテライトトリガーポイントを治療して一時的に症状が軽減したとしても、キートリガーポイントを治療しなければ、症状の再発を繰り返してしまいます。
治療を受けていてもなかなか効果を得られなかったり、症状の再発を繰り返したりする場合は
・見当違いの治療がおこなわれている
たとえば、脚に現れた痛みやしびれを、坐骨神経痛(神経の圧迫による症状)と判断するか、トリガーポイントによる関連痛と判断するかでは、患者さんが受ける治療は異なります。
膝の痛みを関節の変形(軟骨のすり減り)、腰の痛みをヘルニアや狭窄症(背骨の変形・椎間板の変性)と判断されている時も同じです。
・サテライトトリガーポイントばかりを治療している
治療者がキートリガーポイントを探し出せていない。(見逃し・探索不十分)
可能性があります。
患者さんが症状を訴える領域(ほとんどの場合がサテライトトリガーポイント)に対する治療でも、一部(軽症)の患者さんは期待する結果を得ることができるかもしれませんが、症状が長期化(重症化)した患者さんは期待はずれの結果を得ることになってしまいます。
慢性的な痛みでお困りの方には、今まで見つけてもらえなかったトリガーポイントがいるはずです。
施術中、私は患者さんと以下のような会話をします。
私:『〇〇さん、いましたね、ここに』
『ここ痛くないですか?』
患者さん:『あー・・・はい、そこ痛いです』
トリガーポイントがより過敏化している場合は、身体が飛び上がる(ジャンプサインが現れる)ほどに痛いこともありますが、患者さん(脳)は、そこがそんなに痛いことを認識していません。(私の兄もです)
私:『では、こうすると(ズーンと)響く感じがしますか?』
患者さん:『あー・・・はい、(どこに)響く感じがします、けっこう痛いです・・・』
私:『では、ここいきますよ』
患者さん:『はい』
このようなトリガーポイントほどキートリガーポイントの可能性が高く、多くの症例が改善につながります。
坐骨神経痛の成りすまし
トリガーポイントが形成されると、痛み、しびれ、関節の動きの制限などの『関連症状』が現れてきます。
よくある関連症状としては、臀部(お尻)の『小臀筋(しょうでんきん)』にトリガーポイントが形成されると『坐骨神経痛と誤診される痛みやしびれ』が脚に現れてきます。(本当に多いです)
海外では 坐骨神経痛の成りすまし として『偉大なる詐欺師の筋肉』とも呼ばれています。
ですが、小臀筋からしてみれば、自分の領域にトリガーポイントが形成されたから関連症状(坐骨神経痛と誤診される痛みやしびれ)を脚に現しているだけで(坐骨神経痛に成りすますつもりなどないはずですが)、トリガーポイントを知らない多くの医師が『この症状は坐骨神経痛(神経の圧迫による痛みやしびれ)だ』と判断するので『誤診の第一位は坐骨神経痛』になるのです。
でも、もし本当に神経が圧迫されてしまったら『麻痺(刺激が電気信号に変換されなくなる)』は起こっても『痛みやしびれ(刺激が電気信号に変換される)』は起こらないはずなので、坐骨神経からしても迷惑な話だと思います。
ちなみにですが、椎間板ヘルニアが神経を圧迫すると坐骨神経痛が引き起こされると考えられたのは、1911年(明治44年)です。
また、小臀筋のトリガーポイント以外のよくある関連症状として、首の『胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)』に形成されたトリガーポイントから生じる頭痛、肩こり、めまい や 頭や頬にある『咀嚼筋群(そしゃくきんぐん:噛むときに働く筋肉たち)』に形成されたトリガーポイントから生じる顎関節症、頭痛、耳鳴り などがあります。
最初のトリガーポイント『キートリガーポイント』に対して適切なケアを受けられないでいると、そのトリガーポイントがきっかけとなって、二次的に新たなトリガーポイント『サテライト(キートリガーポイントから離れたところにある)トリガーポイント』が形成されて新たな症状が現れてきます。
危ない腰痛
危ない腰痛とは『重篤な疾患によって引き起こされた腰痛』です。
重篤な疾患とは、骨折や悪性腫瘍などの病状がいちじるしく重い『 F A C E T 』と呼ばれる疾患です。
重篤な疾患『 F A C E T 』と『 F A C E T 』の存在を示唆するサイン『レッド フラッグ 』を以下に示します。
『 F A C E T 』
F:Fracture|骨折
A:Aorta|大動脈解離・大動脈瘤破裂
C:Compression|脊髄圧迫症候群
E:Epidural abscess|硬膜外膿瘍・椎体炎
T:Tumor|腫瘍
『 レッド フラッグ 』
⚫︎ 馬尾(ばび)症候群の兆候 → C(脊髄圧迫症候群)
発症の確率は 0.04%(10,000人に4人)と言われています。
この症状の方が私のところに来られたことはありませんが、患者さんのご兄弟が馬尾症候群になったと聞いたことがあります。
ー 症状 ー
・膀胱直腸障害:「排尿したくても出ない(閉尿)または 自分の意思に反して、大・小便を漏らしてしまうことはありませんか?」
・サドル麻痺:「自転車に乗った時にサドルに当たる部分の感覚が麻痺していませんか?」
※ 馬尾症候群は上記の神経症状だけで、腰痛(痛み)を伴わないことがあります。
※ 馬尾症候群は『医学的緊急事態』ですので、緊急手術になることもあります。
⚫︎ 重大な外傷歴(全年齢が対象) → F(骨折)
高齢(骨粗鬆症)の方は、布団の上で尻餅をつくなどの軽微な外傷でも、背骨を圧迫骨折することがあるので注意が必要です。
尻餅をついてしばらく時間が経っても腰や背中の痛みが引かない時は、レントゲン検査を受けてください。
⚫︎ 安静にしていても軽快しない痛み → T(腫瘍) や E(硬膜外膿瘍・椎体炎)
「夜間の絶え間ない痛みや横になっていると痛みが悪化しませんか?」
がんや背骨(脊椎)の感染、内臓疾患の疑いもあります。
⚫︎ 胸背部痛 → A(大動脈解離・大動脈瘤破裂)
「胸(前側)に痛みはありませんか?」
大動脈の解離や瘤破裂、狭心症や心筋梗塞の疑いがあります。
⚫︎ がんの病歴や体重減少、食欲減退 → T (腫瘍)
「以前、がんになったことがありますか?」
「食欲はありますか(減っていませんか)?」
「体重が減っていませんか?」
(運動やダイエットをしていないのに、3ヶ月以内に体重が10%以上減っている)
がん(脊椎転移)の可能性もあります。
⚫︎ 長期間のステロイド剤(主に内服薬)の使用、免疫抑制剤の使用 → F(骨折) や E(硬膜外膿瘍・椎体炎)
ステロイド剤は骨粗鬆症になりやすいので「いつの間にか骨折(脊椎圧迫骨折)」を起こす可能性があります。
免疫抑制剤は免疫力を抑制する作用があるので、背骨(脊椎)に感染を生じる可能性があります。
⚫︎ 発熱 → T(腫瘍)
がんの患者さんは70%で発熱する(腫瘍熱)と言われています。
毎日、37.8℃以上の発熱がある、発熱が2週間以上続くなど
⚫︎ 20歳未満 または 55歳以上 → F A C E T すべて
上記のサイン『 レッド フラッグ 』があるときは、すぐに病院を受診してください。
ある医師(救急医)のブログには
・安静時痛の有無を重視している。
・ F A C E T のうち、A(大動脈解離や瘤)や E(腫瘍や椎体炎)であれば、安静時でも痛みがないということは考えにくい。
・安静時痛がある、という時点で筋骨格系の痛みと言えない可能性がある、何らかの画像検査をせざるを得ない状況だなと考えます。
と書いてありました。
FBSS
Failed Back Surgery Syndrome :FBSS
『脊椎手術後失敗症候群』
・腰椎の手術を受けたにもかかわらず、腰痛や下肢痛などの症状が持続する患者を指す言葉で、新たな症状が増し加わることもある。
・腰椎手術後の 5~50% に FBSS が発生すると言われている。
・FBSS の治療には、複数回の手術が行われることが多い。
・腰椎手術は、脊椎に不可逆的な(手術する前の状態には戻れない)変化を与えるために、一度手術が行われてしまうとその影響は持続する。
・2回目の手術では40~50%が改善し、20%は悪化する。
・3回目の手術では20~30%に有効であるが、25%は悪化する。
・4回目の手術では改善するのは10~20%にとどまり、45%が悪化する。