そよ風 note
ぎっくり腰とトリガーポイント
先日、前日からの「急性腰痛:ぎっくり腰」でお困りの30代の男性が来室されました。
私も、2回ほど(10年前と6年前に)経験していますので、あの痛みとつらさはよくわかります・・・
この写真は施術前、前方にあるベッドに寄りかかりながらイスに座っていただいている状態です。
この「筋肉の強烈な収縮による盛り上がり」と「フラットバック・平らな腰 」は、ぎっくり腰の程度によって強調される、いわば「ぎっくり腰特有」の症状です。
慢性的な腰痛でも同様の現象が起きますが、これだけ広範囲で強烈な筋肉の収縮は、ぎっくり腰の極期(最も症状が激しい時期)でしか見ることはできません。
実際に目の前で見ると、皮膚の緩みがなくなったことによる光の反射(異様な光景)からも、その緊張の強さが伝わってきます。
この男性も、前屈みの姿勢から上体を起こすことができず、前屈みを支えるために手で脚の付け根あたりを押さえ、あの痛みを引き起こさないためにもその姿勢を保っていました。
一見すると◯で囲った「筋肉の盛り上がり」がぎっくり腰の原因に思えるかもしれませんが、この強烈な収縮は「原因」ではなく「結果」なのです。
脳で感じているあの痛みは、この強烈な筋肉の収縮によって生じているのですが、この筋肉がここまで収縮しなければならない理由は、身体前面(前腰部)にある深層筋群(腹直筋や腸骨筋・大腰筋などの腸腰筋)といった「屈筋群(からだを曲げる筋肉)」の持続的な収縮(ロック)にあります。
この収縮によるロックは、車のシートベルトがロックして伸びなくなったような現象です。そのため、上体を起こすことが困難になります。
通常、身体を前に倒す際は、お腹側の筋肉(主動筋)が収縮すると同時に、背中や腰の筋肉(拮抗筋:反対の動きをする筋肉)が緩むことによって、スムーズに動くことができます。
肘や膝の曲げ伸ばしも同様で、一方の筋肉が収縮するともう一方の筋肉は緩む「相反神経支配」というシステムが働いています。
※実は通常の動きでも、反対の動きをする筋肉はブレーキをかけながら耐える「伸張性収縮(引き伸ばされながら収縮する)」という、筋肉にとってはとても過酷な仕事をしています。
ところが、ぎっくり腰の時には「身体は前屈みなのに、背中の筋肉が板みたいに硬くなる(主動筋と拮抗筋が同時に激しく収縮してしまう:共収縮)」という、通常とは異なる現象が起こります。
身体前面の筋肉(腹直筋や腸腰筋など)の持続的な収縮に対して、脳と脊髄がこれ以上の前方への傾きや転倒を防ぐ(バランスを保つ)ために、身体後面(背中の起立筋群や臀部)の筋肉に防御指令を送り、最大強度で引っ張っている『超高圧なコルセット』こそが、ぎっくり腰の本態です。
身体を守るために脳と脊髄が出す指令は、非常に強力なのです。
このような症状に対しては、事前の説明はそこそこにして、とにかく施術を開始します。
この症状を引き起こしていた『活性化したトリガーポイント(訳あり筋)』に対して、30分ほど施術した結果です。
トリガーポイントが不活性化し、脳と脊髄からの防御指令が解除されたことで、筋肉の強烈な収縮も弛緩しました。前方のベッドに寄りかかることもなく座れています。
施術中は、それなりの痛みに耐えていただくことになりましたが、無事にリリースすることができました。
この男性の急性腰痛は、トリガーポイントによるぎっくり腰でしたが
『急に腰(背中)が痛くなった:急性腰痛』= 『トリガーポイントによるぎっくり腰』とは限りません。
特に、痛みの訴えが非常に強いにも関わらず、この男性のような典型的な防衛的筋収縮や姿勢変化が乏しい場合や、安静時痛(じっとしていても痛い、楽になる姿勢がない)・ 夜間痛(痛くて眠れない)がある場合には、背骨の圧迫骨折や悪性腫瘍、血管疾患などの可能性も考慮する必要があります。
トリガーポイントによるぎっくり腰では「この姿勢なら楽」という、逃げ場があります。
起き上がりや寝返りが地獄のようにつらくても、逃げ場がないことは一般的ではありません。
「危ない腰痛」
https://kinji-shimada.com/diary/141609
「膀胱がんによる腰痛」
顎の痛みとトリガーポイント
先日、3日前から「右顎の痛み」と「口が開けられない(開口制限)」という症状でお困りの50代の女性が来室されました。
撮影および掲載の許可をいただきましたので、施術前後の様子をご紹介します。
施術前に開口の程度を確認すると、口は指1本分しか開きませんでした。
3日前、お弁当の「とんかつ」を食べようとしたところ、顎の痛みとともに口が開かずに落としてしまったとのこと…
その後もまともに食事ができない状態が続いたそうです。
顎の痛みと開口制限(顎関節症)に関わる筋はいくつかありますが、その中でもメインのターゲットになるのは、口の中にある「内側翼突筋(ないそくよくとつきん)」です。
施術前に、トリガーポイント大辞典で内側翼突筋の位置や形などをお見せしながら「少々痛みを伴う施術になると思います」と説明し、施術を開始しました。
私の触診では、内側翼突筋のトリガーポイントは3箇所に見つかることが多く、この女性もそれぞれに緊張と圧痛の強さを確認しました。
一方、左側には明らかな緊張と圧痛はなく、ご本人も左右の状態の違いをはっきり感じられたようでした。
やはり、最初のアプローチでは強い痛みを伴ったようですが、ピンサーテクニック(トリガーポイントを指で挟み込んで持続的に圧迫する手技)によるアプローチを3回ほど繰り返すと、指3本まで痛みなく開口できるようになりました。
女性はとても驚いた様子で、目も大きく開いていました。
改善に要した時間は10分ほどでしたが、この症状に関連していると思われる顔・頭・首周囲のトリガーポイントにもアプローチして施術を終了しました。
翌日と1週間後には「痛みなく口を開けられて、ご飯も食べられている」「顎関節症だったことも忘れて痛かったのが嘘のよう」とのご報告をいただき、私も安心しました。
ちなみに「内側翼突筋」の「翼突(よくとつ)」という名称は、頭蓋骨の一部である 蝶形骨(ちょうけいこつ)の「翼状突起(よくじょうとっき)」に由来しています。
この筋肉が付着している骨の突起が、蝶の羽のような形をしていることから名付けられたそうです。
口の奥に存在する、長さ 4〜5cm・幅 2〜3cm・厚さ 1cmほど の小さな筋肉に発生したトリガーポイントが、顎の痛みと開口制限に深く関わっているのです。
トリガーポイントによる痛みは「炎症」を伴うものではありませんが、「延焼(慢性化)」する前に「消火(鎮静化)」することで早期の改善が期待できます。
時間が経過して慢性化するほど、トリガーポイントの数や痛む範囲が広がり、改善に要する時間も必要になります。
次回は「ぎっくり腰」ついて、症例とともにご紹介します。
「こむら返り」 と 「下肢静脈瘤」 と 「膝の痛み」
女性の左脚を触診したところ、いくつかのトリガーポイントと思われる圧痛点は確認できたものの、膝下から足の甲にかけての静脈が腫れて拡張し、コブのように浮き上がっていた。
この所見から、こむら返りの原因は下肢静脈瘤が強く疑われたので、施術は行わず、静脈瘤専門のクリニックをご紹介して帰宅していただいた。
後日、検査で静脈瘤が確認され「大伏在(だいふくざい)静脈(太ももの内側から足首まで、皮膚のすぐ下を走る静脈)の血管内塞栓術」を受けた後は、『こむら返りはすっかりなくなり、足も軽くなった』との報告をいただいた。
そして。
『実は(左)膝も痛かったが、痛くなくなった』と仰っていた。
先日の「日経メディカル」には、「下肢静脈瘤の治療で変形性膝関節症の膝痛が改善」という記事が掲載されていました。(これは、弾性ストッキング着用による治療です)
とにかく、よかったです。
下肢静脈瘤に関して、20年以上前にある医師から教わったこと
・静脈瘤になってしまったら、悪くなることはあってもよくなる(治る)ことはない
・放置すれば重症化する可能性がある
・疑わしい症状を見つけたら、速やかに専門医に紹介する
・重症化を防ぐには、早期治療が大切である
・診断には、超音波による検査が必須である
以後、下肢静脈瘤が疑われる方には専門医の受診を勧めていますが、結果的に静脈瘤と診断される方は、異常なしとされた方よりもはるかに多いです。
「こむら返り」 と 「骨盤の歪み」
先日、患者さんからのご紹介で、左脚の「こむら返り」にお悩みの70代の女性が来室された。
もともと就寝中に足がつることは時々あったが、2〜3ヶ月前から頻繁に起こるようになったとのことだった。
「年齢のせいで筋肉が硬くなってしまったからかもしれない」と思い、自宅近くの整骨院を訪ねたところ、『骨盤が歪んで脚の長さに差が出ているから、このままでは歩けなくなってしまう』と言われたそうだ。
歩けなくなっては困ると不安になった女性は、お得だと勧められた回数券を購入して「骨盤矯正」を10回ほど受けたが、症状はまったく改善しなかった。
にもかかわらず、『あなたの骨盤の歪みは特にひどいので、もっと効果的な施術が必要だ』と、さらに高額な回数券の購入を勧められたが、女性は納得がいかなかったので断ったとのことだった。
このような「リピート & アップセル」が目的の「骨盤の歪み商法」は、整骨・整体業界では「ビジネスモデル」などと称されていますが、実態はただの「煽り商法」にすぎません。
「情弱ビジネス」とも呼ばれていますが、整骨・整体(個人・チェーンを問わず)業界に広く浸透しているのが実情です。
このような商法は、「初回割引(今だけ・◯人限定など)」⇨「不安を煽る説明(このままでは危険)」⇨「回数券販売(長期・高額)」の流れになっています。
・医学的な見解では、骨盤は強靭な靭帯と関節によって安定しており、骨折などの明瞭な損傷がない限り「歪み」が生じることはありませんが、整骨・整体的な見解では、簡単に「歪み」が生じます。
・「骨盤矯正」という用語は、「歯列矯正」のように医学的に定義されたものではなく、整骨・整体で用いられる非医学的な(ビジネス)用語です。
テニスをしないNさんの「テニス肘」
先日から、右肘の痛みを訴える40代の男性・Nさんが来室されている。
右肘の痛みは昨年の11月頃から徐々に強まり、今年に入ってさらに悪化したそうだ。
ある日、右肘の痛みのためにペットボトルの蓋を開けられなくなったNさんは整形外科を受診し「テニス肘」と診断された。
処方されたのは「痛み止め(抗炎症薬)と湿布」。
しかし、毎日痛み止めを服用し、湿布を貼り続けても症状の改善は見られなかった。
そこで、次に訪れた整骨院でも「テニス肘」と言われ、電気(ビリビリ)と超音波を5回ほど受けたが、効果を感じられなかった。
そのうえ、筋力がないからということで筋力訓練の方法も教えてくれたが、痛くてそれどころではなかったそうだ。
不安を感じたNさんは「まだ痛いのですが……」と先生に相談すると「これは時間がかかります。半年から1年はかかるかもしれません」と告げられ、愕然としたという。
他に治療法はないかとインターネットで調べたところ、私の施術を見つけたそうだ。
◾️テニス肘とは
テニス肘は、医学的には「上腕骨外側上果炎」と呼ばれている。
「テニス肘」という名称は 1880年代(140年以上前)から使われており、テニスをする人にも、しない人にも起こる症状だ。
医学的には「使いすぎによって上腕骨の外側上果が炎症を起こす」とされている。
理論的には「使いすぎ」が原因なら、しばらく安静にすれば治るはずだが、現実にはそう簡単に改善しない。
また、炎症があるなら抗炎症薬が効くはずだが、Nさんのように痛み止めを飲んでも改善しないケースがほとんどだ。
このようなことから、テニス肘は「難治性(なかなか治らない痛み)」とされている。
しかし、難治性の原因は「使いすぎ・炎症説」が140年以上も語り継がれ、治療法がそれに基づいている からだ。
◾️Nさんの「テニス肘」の背景
テニス肘の痛みを確認するためのテストがある。
テストの説明をしたところ、Nさんが「それ、痛いんです、整形外科でも整骨院でもやりました…」と話してくれたので中止した。
Nさんの「痛みストーリー」を聴くと、そこにはトリガーポイントのヒントが多く隠されていた。
Nさんのテニス肘も、痛みストーリーの結果『キートリガーポイント』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』と判断してトリガーポイントを探索したところ、右肘(腕)意外にも多数のトリガーポイントが存在していた。
テニス肘の症状を現しているのは、サテライトトリガーポイントだ。
Nさんはテニスをせず、右腕だけを酷使するような生活も送っていないが、これまでに以下のような 症状とストレス を抱えていた。
・定期的な頭痛(脳神経外科を受診するも異常なし。頭痛薬を常備)
・慢性的な首肩の凝り(2週間前にも寝違え)
・時々、腰(臀部)や脚が痛い
・職場での人間関係
トリガーポイントと思われる部位を触診すると、Nさんは体が飛び上がるほどの強い痛みを感じたようだ。
また「立ったまま天井を見てください」とお願いすると、頭を十分に後へ倒せず、天井を見ることができなかった。
◾️施術の経過
これまでに週2回の施術を3週間継続したところ、右肘の痛みは軽減(痛みレベル10 → 3 または 2 )した。
さらには、頭痛薬を飲まなくなったと喜んでいただいた。
触診すると、まだ「そこそこ痛い」箇所はあるものの、痛みの悪循環からは確実に抜けつつある。
◾️「使いすぎ・炎症説」は本当に正しいのか?
テニス肘の原因として、140年以上語られてきた「使いすぎ・炎症説」は本当に正しいのだろうか?
少なくともNさんのケースでは、使いすぎが原因と言えず、炎症があったとも考えにくい。
しかし、医療を提供する側にとっては、この説を前提とした治療が 都合がいい 。
なぜなら「使いすぎが原因だから安静に」「炎症があるから痛み止めと湿布を」と説明したほうが、今の医療システムにとっても好都合だからだ。
これはテニス肘に限らず、多くの 慢性痛治療が同じ構造 になっている。







