そよ風 note
「こむら返り」 と 「下肢静脈瘤」 と 「膝の痛み」
女性の左脚を触診したところ、いくつかのトリガーポイントと思われる圧痛点は確認できたものの、膝下から足の甲にかけての静脈が腫れて拡張し、コブのように浮き上がっていた。
この所見から、こむら返りの原因は下肢静脈瘤が強く疑われたので、施術は行わず、静脈瘤専門のクリニックをご紹介して帰宅していただいた。
後日、検査で静脈瘤が確認され「大伏在(だいふくざい)静脈(太ももの内側から足首まで、皮膚のすぐ下を走る静脈)の血管内塞栓術」を受けた後は、『こむら返りはすっかりなくなり、足も軽くなった』との報告をいただいた。
そして。
『実は(左)膝も痛かったが、痛くなくなった』と仰っていた。
先日の「日経メディカル」には、「下肢静脈瘤の治療で変形性膝関節症の膝痛が改善」という記事が掲載されていました。(これは、弾性ストッキング着用による治療です)
とにかく、よかったです。
下肢静脈瘤に関して、20年以上前にある医師から教わったこと
・静脈瘤になってしまったら、悪くなることはあってもよくなる(治る)ことはない
・放置すれば重症化する可能性がある
・疑わしい症状を見つけたら、速やかに専門医に紹介する
・重症化を防ぐには、早期治療が大切である
・診断には、超音波による検査が必須である
以後、下肢静脈瘤が疑われる方には専門医の受診を勧めていますが、結果的に静脈瘤と診断される方は、異常なしとされた方よりもはるかに多いです。
「こむら返り」 と 「骨盤の歪み」
先日、患者さんからのご紹介で、左脚の「こむら返り」にお悩みの70代の女性が来室された。
もともと就寝中に足がつることは時々あったが、2〜3ヶ月前から頻繁に起こるようになったとのことだった。
「年齢のせいで筋肉が硬くなってしまったからかもしれない」と思い、自宅近くの整骨院を訪ねたところ、『骨盤が歪んで脚の長さに差が出ているから、このままでは歩けなくなってしまう』と言われたそうだ。
歩けなくなっては困ると不安になった女性は、お得だと勧められた回数券を購入して「骨盤矯正」を10回ほど受けたが、症状はまったく改善しなかった。
にもかかわらず、『あなたの骨盤の歪みは特にひどいので、もっと効果的な施術が必要だ』と、さらに高額な回数券の購入を勧められたが、女性は納得がいかなかったので断ったとのことだった。
このような「リピート & アップセル」が目的の「骨盤の歪み商法」は、整骨・整体業界では「ビジネスモデル」などと称されていますが、実態はただの「煽り商法」にすぎません。
「情弱ビジネス」とも呼ばれていますが、整骨・整体(個人・チェーンを問わず)業界に広く浸透しているのが実情です。
このような商法は、「初回割引(今だけ・◯人限定など)」⇨「不安を煽る説明(このままでは危険)」⇨「回数券販売(長期・高額)」の流れになっています。
・医学的な見解では、骨盤は強靭な靭帯と関節によって安定しており、骨折などの明瞭な損傷がない限り「歪み」が生じることはありませんが、整骨・整体的な見解では、簡単に「歪み」が生じます。
・「骨盤矯正」という用語は、「歯列矯正」のように医学的に定義されたものではなく、整骨・整体で用いられる非医学的な(ビジネス)用語です。
テニスをしないNさんの「テニス肘」
先日から、右肘の痛みを訴える40代の男性・Nさんが来室されている。
右肘の痛みは昨年の11月頃から徐々に強まり、今年に入ってさらに悪化したそうだ。
ある日、右肘の痛みのためにペットボトルの蓋を開けられなくなったNさんは整形外科を受診し「テニス肘」と診断された。
処方されたのは「痛み止め(抗炎症薬)と湿布」。
しかし、毎日痛み止めを服用し、湿布を貼り続けても症状の改善は見られなかった。
そこで、次に訪れた整骨院でも「テニス肘」と言われ、電気(ビリビリ)と超音波を5回ほど受けたが、効果を感じられなかった。
そのうえ、筋力がないからということで筋力訓練の方法も教えてくれたが、痛くてそれどころではなかったそうだ。
不安を感じたNさんは「まだ痛いのですが……」と先生に相談すると「これは時間がかかります。半年から1年はかかるかもしれません」と告げられ、愕然としたという。
他に治療法はないかとインターネットで調べたところ、私の施術を見つけたそうだ。
◾️テニス肘とは
テニス肘は、医学的には「上腕骨外側上果炎」と呼ばれている。
「テニス肘」という名称は 1880年代(140年以上前)から使われており、テニスをする人にも、しない人にも起こる症状だ。
医学的には「使いすぎによって上腕骨の外側上果が炎症を起こす」とされている。
理論的には「使いすぎ」が原因なら、しばらく安静にすれば治るはずだが、現実にはそう簡単に改善しない。
また、炎症があるなら抗炎症薬が効くはずだが、Nさんのように痛み止めを飲んでも改善しないケースがほとんどだ。
このようなことから、テニス肘は「難治性(なかなか治らない痛み)」とされている。
しかし、難治性の原因は「使いすぎ・炎症説」が140年以上も語り継がれ、治療法がそれに基づいている からだ。
◾️Nさんの「テニス肘」の背景
テニス肘の痛みを確認するためのテストがある。
テストの説明をしたところ、Nさんが「それ、痛いんです、整形外科でも整骨院でもやりました…」と話してくれたので中止した。
Nさんの「痛みストーリー」を聴くと、そこにはトリガーポイントのヒントが多く隠されていた。
Nさんのテニス肘も、痛みストーリーの結果(『キートリガーポイント』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』)と判断してトリガーポイントを探索したところ、右肘(腕)意外にも多数のトリガーポイントが存在していた。
テニス肘の症状を現しているのは、サテライトトリガーポイントだ。
Nさんはテニスをせず、右腕だけを酷使するような生活も送っていないが、これまでに以下のような 症状とストレス を抱えていた。
・定期的な頭痛(脳神経外科を受診するも異常なし。頭痛薬を常備)
・慢性的な首肩の凝り(2週間前にも寝違え)
・時々、腰(臀部)や脚が痛い
・職場での人間関係
トリガーポイントと思われる部位を触診すると、Nさんは体が飛び上がるほどの強い痛みを感じたようだ。
また「立ったまま天井を見てください」とお願いすると、頭を十分に後へ倒せず、天井を見ることができなかった。
◾️施術の経過
これまでに週2回の施術を3週間継続したところ、右肘の痛みは軽減(痛みレベル10 → 3 または 2 )した。
さらには、頭痛薬を飲まなくなったと喜んでいただいた。
触診すると、まだ「そこそこ痛い」箇所はあるものの、痛みの悪循環 からは確実に抜けつつある。
◾️「使いすぎ・炎症説」は本当に正しいのか?
テニス肘の原因として、140年以上語られてきた「使いすぎ・炎症説」は本当に正しいのだろうか?
少なくともNさんのケースでは、使いすぎが原因と言えず、炎症があったとも考えにくい。
しかし、医療を提供する側にとっては、この説を前提とした治療が 都合がいい 。
なぜなら「使いすぎが原因だから安静に」「炎症があるから痛み止めと湿布を」と説明したほうが、今の医療システムにとっても好都合だからだ。
これはテニス肘に限らず、多くの 慢性痛治療が同じ構造 になっている。
膀胱がんによる腰痛
今から8年ほど前(山梨の施術室に)、膀胱がんによる腰痛の患者さん(60歳代・男性)が来られた。
男性は腰が痛いから横になっている・・・ということで奥様から
『主人の腰痛が(いくつか整形外科に行ったが)よくならないので、なんとかしてほしい』という連絡があり、すぐに来ていただいた。
入り口では前かがみの姿勢で入って来られ、施術室では膝に両手をついたまま座っているのも辛そうで、顔の汗が止まらなかった。
まさかと思いながらも話を伺うと『体重も落ちて食欲もない』『夜も痛くて眠れない』とのことだった。
(奥様から連絡をいただいた時に確認しなかったことを後悔する)
まさに『 レッド フラッグ 』です。
この腰痛は、私が施術することができない原因である可能性が高いので、すぐに総合病院へ行ってくださいと話し帰宅していただいた。
後日、奥様から『膀胱がんでした。そのまま入院しました』との連絡をいただいたが、医師からは『どうして、もっと早く来なかったんですか?!』と言われたとのこと。
でも、この男性は、腰が痛いから整形外科を受診したまでで・・・
膀胱がんで腰(骨盤内)に痛みを感じる時は、がんが進行していることが多いらしいです。
きっと、この男性もそうだったのでしょう。
その後しばらくして『無事退院した』との連絡をいただいき安心した。
腰痛患者さんの中でのがんの割合は、0.7%(1,000人に7人)程度と言われています。
程度は極めて低いですが、0%ではありません。
腰痛を引き起こす可能性があるのは、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がんなどです。
また、乳がん、肺がん、前立腺がんなどは、背骨(脊椎)への転移を起こしやすいと言われています。
腰に電気ビリビリ
先日、ギックリ腰になってからなかなか治らずに困っているという、前屈み気味の姿勢で右脚の運びがスムーズではない男性があきる野市から来られた。
施術前にこれまでの話を伺うと
『昔から腰痛持ちで、整形外科の先生からは背骨が変形していると言われている』
『整形外科で腰に電気をビリビリあててもらっていた』
とのことだった。
ところが、1ヶ月前のある朝、ギックリ腰になってしまったそうだ。
今まではたまにしか行かなかった電気ビリビリも早くよくなりたい一心で毎日通ったが、期待する結果を得ることはできなかったようだ。
あのギックリ腰から1ヶ月経ったが、いまだに
・朝、起き上がる時に腰が痛い
・椅子から立ち上がる時や車から降りて歩き出す時に腰が痛い
・洗顔時(前屈み)やズボンを履く(脚を上げる)時に腰が痛い・脚が上がらない
とのことだった。
男性の訴えからトリガーポイントを探索していくと
◯で囲ってある(トリガーポイントが存在するであろう)部分の緊張と圧痛(飛び上がるほど)がとても強く、男性も腰以外がそんなに痛いことに驚いていた。
患者さんは『腰が痛い』という症状(結果)しか、わからないからです。
『予想通りの部位に予想通りの緊張と圧痛(トリガーポイント)』
前屈み気味の姿勢で右脚の運びがスムーズではないことが頷けた。
この男性の腰痛の原因は『腰が悪い(背骨が変形している)から』ではありません。
この男性に対する施術は、3回(週1×3)で終了した。
腰痛でお困りの患者さんに対して効果の有無も確認しないまま、いつまでも腰に電気ビリビリをあて続けるのは『患者さんのために必要だから』ではなく、電気ビリビリ以外にやることのない『病院(整骨院)のために必要だから』でしょう。