そよ風 note
『キートリガーポイント』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』
トリガーポイントが形成された筋・筋膜には局所的に緊張が亢進した領域があり、そこを触診すると痛みを感じる『トリガーポイント』が見つかります。(時には口の中にもです)
ところが、トリガーポイントは患者さんが症状を感じる領域にあるとはかぎりません。
したがって、トリガーポイントを探す時には、患者さんが症状を感じている領域だけではなく、離れた領域(筋膜の連鎖)も考慮する必要があります。
最初のトリガーポイント『キートリガーポイント』に対して適切なケアを受けられないでいると、そのトリガーポイントがきっかけとなって、二次的に新たなトリガーポイント『サテライト(キートリガーポイントから離れたところにある)トリガーポイント』が形成されて新たな症状が現れてきます。
たとえば、首の『胸鎖乳突筋』にキートリガーポイントが形成されると、『側頭筋(頭)』『咬筋(頬)』『眼輪筋(目のまわり)』『前頭筋(額)』などにサテライトトリガーポイントが形成されます。(私がいつも触診するところです)
『キートリガーポイン』 ⇨ 『サテライトトリガーポイント』の症例として
・『以前は 首・肩こり だけだったのに』 ⇨ 『最近は 頭痛(耳鳴り、めまい)も感じる』
・『以前は 首・肩こり だけだったのに』 ⇨ 『最近は 腕も痛い』
・『以前は 腰痛 だけだったのに』 ⇨ 『最近は 脚の付け根や膝も痛い』
この傾向は、時間が経てば経つほど強くなります。
サテライトトリガーポイントは、キートリガーポイントよりも新しいために症状が強く現れる傾向があるので、治療のポイントとして選択されやすいです。
しかし、サテライトトリガーポイントを治療して一時的に症状が軽減したとしても、キートリガーポイントを治療しなければ、症状の再発を繰り返してしまいます。
治療を受けていてもなかなか効果を得られなかったり、症状の再発を繰り返したりする場合は
・見当違いの治療がおこなわれている
たとえば、脚に現れた痛みやしびれを、坐骨神経痛(神経の圧迫による症状)と判断するか、トリガーポイントによる関連痛と判断するかでは、患者さんが受ける治療は異なります。
膝の痛みを関節の変形(軟骨のすり減り)、腰の痛みをヘルニアや狭窄症(背骨の変形・椎間板の変性)と判断されている時も同じです。
・サテライトトリガーポイントばかりを治療している
治療者がキートリガーポイントを探し出せていない。(見逃し・探索不十分)
可能性があります。
患者さんが症状を訴える領域(ほとんどの場合がサテライトトリガーポイント)に対する治療でも、一部(軽症)の患者さんは期待する結果を得ることができるかもしれませんが、症状が長期化(重症化)した患者さんは期待はずれの結果を得ることになってしまいます。
慢性的な痛みでお困りの方には、今まで見つけてもらえなかったトリガーポイントがいるはずです。
施術中、私は患者さんと以下のような会話をします。
私:『〇〇さん、いましたね、ここに』
『ここ痛くないですか?』
患者さん:『あー・・・はい、そこ痛いです』
トリガーポイントがより過敏化している場合は、身体が飛び上がる(ジャンプサインが現れる)ほどに痛いこともありますが、患者さん(脳)は、そこがそんなに痛いことを認識していません。(私の兄もです)
私:『では、こうすると(ズーンと)響く感じがしますか?』
患者さん:『あー・・・はい、(どこに)響く感じがします、けっこう痛いです・・・』
私:『では、ここいきますよ』
患者さん:『はい』
このようなトリガーポイントほどキートリガーポイントの可能性が高く、多くの症例が改善につながります。
坐骨神経痛の成りすまし
トリガーポイントが形成されると、痛み、しびれ、関節の動きの制限などの『関連症状』が現れてきます。
よくある関連症状としては、臀部(お尻)の『小臀筋(しょうでんきん)』にトリガーポイントが形成されると『坐骨神経痛と誤診される痛みやしびれ』が脚に現れてきます。(本当に多いです)
海外では 坐骨神経痛の成りすまし として『偉大なる詐欺師の筋肉』とも呼ばれています。
ですが、小臀筋からしてみれば、自分の領域にトリガーポイントが形成されたから関連症状(坐骨神経痛と誤診される痛みやしびれ)を脚に現しているだけで(坐骨神経痛に成りすますつもりなどないはずですが)、トリガーポイントを知らない多くの医師が『この症状は坐骨神経痛(神経の圧迫による痛みやしびれ)だ』と判断するので『誤診の第一位は坐骨神経痛』になるのです。
でも、もし本当に神経が圧迫されてしまったら『麻痺(刺激が電気信号に変換されなくなる)』は起こっても『痛みやしびれ(刺激が電気信号に変換される)』は起こらないはずなので、坐骨神経からしても迷惑な話だと思います。
ちなみにですが、椎間板ヘルニアが神経を圧迫すると坐骨神経痛が引き起こされると考えられたのは、1911年(明治44年)です。
また、小臀筋のトリガーポイント以外のよくある関連症状として、首の『胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)』に形成されたトリガーポイントから生じる頭痛、肩こり、めまい や 頭や頬にある『咀嚼筋群(そしゃくきんぐん:噛むときに働く筋肉たち)』に形成されたトリガーポイントから生じる顎関節症、頭痛、耳鳴り などがあります。
最初のトリガーポイント『キートリガーポイント』に対して適切なケアを受けられないでいると、そのトリガーポイントがきっかけとなって、二次的に新たなトリガーポイント『サテライト(キートリガーポイントから離れたところにある)トリガーポイント』が形成されて新たな症状が現れてきます。
患者さんのより快適な寝姿勢を求めて
先週から、リラクゼーション枕『ハグモッチ』を導入しました。
あお向けや横向きでの施術時、患者さんはより快適な寝姿勢をつくれるようになり、私はよりアプローチしやすくなりました。
導入から1週間経ちましたが、患者さんからの評判もとてもよいです。
でも『今までの方がいい』方は、遠慮なくおっしゃってくださいね。
ハグモッチでの寝姿勢や製品の詳細は、以下のハグモッチ公式サイトをご覧ください。
ハグモッチ公式サイト
ハグモッチプレミアム
写真のカバーはネイビーですが、グレーの時もあります。
うつ伏せ時には今まで通り『ボディクッション』を使用します。
女性の筋膜に対するホルモンの影響
これまで、肩こりや腰痛や関節痛など(筋骨格系の痛み)の有病率は、男性よりも女性の方が有意に高く、女性の方が慢性化しやすいことは知られていましたが、その理由はよくわかっていませんでした。
ところが、筋膜の研究が進むにつれて、ホルモンが女性の筋膜に及ぼす(女性患者さんを治療するうえでの)重要性が明らかになってきました。
女性の筋膜を調べた研究では、女性の筋膜の細胞には性ホルモン受容体(ホルモンと作用するタンパク質:細胞に情報を伝えるもの)が含まれていて、閉経後の女性では閉経前の女性に比べて受容体の発現量が少ないことがわかりました。
現在では、更年期(40歳〜55歳くらい)から閉経後において、ホルモンバランスが変化するにつれてコラーゲンとエラスチンの比率が変化し、筋膜の組織とその働きに変化を引き起こすことがわかっています。
『コラーゲンとエラスチンについて』
筋膜は、コラーゲンとエラスチンと水分でできていますが、ホルモンの影響を受けるのは主にコラーゲンのようです。
コラーゲンという名前は「接着剤」を意味するギリシャ語の「kólla」 と「生成」を意味する接尾辞の「gen」 に由来するそうです。
現在、コラーゲンには19種類の型があり、Ⅰ 型、Ⅱ 型、Ⅲ 型、・・・と分類されています。
その中でも Ⅰ 型コラーゲンは身体でもっとも多く、皮膚、骨、腱、靭帯、筋膜にあり、全コラーゲンの90%を占ます。
そして、Ⅰ 型コラーゲンは鉄鋼よりも強く、強大な張力に耐えることができるほどとても頑丈なので、筋膜は「第2の骨格」と言われています。
Ⅱ 型コラーゲンは、Ⅰ 型コラーゲンよりもずっと細く、軟骨と椎間板にあります。
Ⅰ 型 と Ⅱ 型のコラーゲンは張力に抵抗しますが、伸張できるのは元の長さの10%までです。
Ⅲ 型コラーゲンは、皮膚、骨膜、(平滑)筋、動脈、内臓などにあり、柔軟な臓器の構造を維持し、創傷(きず)を治し、腱・靭帯・骨膜が骨に付着する部分として機能しています。
エラスチン線維は、コラーゲン線維よりも細く、反発力を加える弾性線維(組織がゴムのように伸縮する柔軟性)です。
コラーゲンとエラスチンは互いに交差したり螺旋状に巻き付いたりして、強度と弾力性を与えています。
エラスチンは元の長さの230%まで伸張しますが、その機能は、加齢や太陽の光によって低下してしまいます。
『エストロゲンと筋膜』
エストロゲン(卵胞ホルモン):妊娠の準備をするホルモン
・子宮内膜を厚くして妊娠に備える
・女性らしい身体をつくる
・自律神経の働きを安定させる
・Ⅰ 型コラーゲンの産生を促す
・血管、骨、関節、脳などを健康に保つ
エストロゲンは、Ⅰ 型コラーゲンの産生を促し、コラーゲンの架橋(コラーゲンの安定維持のために結びつく)濃度を高め、Ⅲ 型コラーゲンを減少させることによって、筋肉と筋膜を強化します。
また、コラーゲンとエラスチンの分解を遅らせて、筋膜が硬くなること(弾力性や伸縮性の低下)から保護しています。
したがって、閉経期移行中および閉経後にエストロゲンのレベルが低下すると、筋膜は硬くなって、弾力性や伸縮性が低下してしまうのです。
『プロゲストロンと筋膜』
プロゲストロン(黄体ホルモン):妊娠を維持するホルモン
・エストロゲンの働きによって厚くなった子宮内膜を柔らかく維持して妊娠しやすい状態にする
・水分や栄養をため込み、妊娠を維持する
・体温を上げたり、食欲を増やしたりする
ホルモンが筋膜に影響を及ぼす一つの重要な領域は、食道と胃の境目にある「下部食道括約筋」です。
下部食道括約筋は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流しないように、胃の噴門(胃の入り口)を締める働きをしています。
妊娠中のエストロゲンとプロゲストロンの上昇は、下部食道括約筋の締まりを緩ませるので、妊娠中に高頻度にみられる胃食道逆流症の病因となります。
『筋膜性の痛み(筋膜性疼痛症候群)』
筋膜性の痛みには、年齢との間に相関関係があることがわかりました。
ある研究では、高齢の人は若い人よりも側頭部(頭)の筋膜が硬いことを示しています。
年齢が上がるにつれて、より硬く柔軟性の低い筋膜が形成され、滑走性(組織が互いにすべり合う動き)が低下します。
痛みの原因となる筋膜にそのような変化が起こると、筋膜性疼痛症候群(痛みや関節の動きの制限)を引き起こします。
筋膜性疼痛は、男性よりも女性に多く、閉経前の女性よりも閉経後の女性に多い。
参考にした本「Fascia, Function, and Medical Applications(筋膜、機能、医療への応用)」には、以下のことも書いてありました。
・筋膜と痛みの関係が明らかになったことで、医師は、単に症状を緩和するために薬を処方するのではなく、筋膜を慢性的な痛みの病因として考慮しなければいけない。
・ホルモンが筋膜組織にどのような調節不全を引き起こすかについての知識は、筋膜性疼痛の性差の違いを理解し、女性患者さんを治療する際にはとても重要である。
・これまでの研究によって、ホルモンが女性の筋膜の健全な機能をサポートするうえで重要な役割を担っていることがわかった。臨床家(医師や治療家)は、女性患者さんを治療する際に、このことを念頭におくべきである。
・ホルモンが筋膜組織にどのような影響を及ぼすかについての理解は始まったばかりだが、ホルモンが筋膜組織に影響を及ぼすことは明らかである。
これからも筋骨格系の痛みに対して、「背骨や椎間板の変形」「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」「神経の圧迫」「関節の変形」「軟骨のすり減り」など、今まで通りの説明(治療)がされるなら、慢性化しやすい女性はより慢性化してしまう。
そして、「先進国中でもっとも遅れている」とされる日本の慢性痛医療は、もっとも遅れたままだ。
症状が出ている期間が長い(数ヶ月から数年)ほど、トリガーポイントの数も多く、広範囲に及ぶ傾向があります。
◻︎参考文献◻︎
「Fascia, Function, and Medical Applications (筋膜、機能、医療への応用)第2版」 2025
13章 Hormonal Effects on Fascia in Women(女性の筋膜に対するホルモンの影響)
「ファシア ー その存在と知られざる役割 ー」医道の日本社 2020
画像診断の価値と課題
ー 画像診断の価値と課題 ー
⚫︎ 脊椎画像検査は過剰使用
約1/4は不適切
⚫︎ 椎間関節炎は腰痛とは無関係
有痛性の椎間関節を同定できる画像検査はない
⚫︎ 不適切な画像検査と外科的治療や注射の実施率上昇には関連あり
⚫︎ プライマリ・ケア医に不要な検査
1番目に、発症6週間以内の腰痛に対する画像検査
(神経障害や骨髄炎などが疑われる場合は除く)
⚫︎ M R I
・腰痛と椎間板変性との間に関連性なし
腰痛経験者の47%は正常なMRI
・有痛性のヘルニアと無症状のヘルニアでは緩和時間と椎間板変性の程度が異なる
・MRIの画像で新しい腰痛エピソードの説明がつくことは稀
⚫︎ 腰痛患者のX線写真、最新の画像検査が患者のアウトカム(結果)の改善に結びつかない
(米国内科学会の声明)
⚫︎ 最新の画像検査の相当多くが患者の治療に限定的な価値しかない
⚫︎ 画像装置を自分で持つ医師による画像検査は、治療期間や費用のうえで利点に関連しない
⚫︎ 画像装置を備えた医師は、患者に画像検査を受けさせる可能性が高い
⚫︎ MRI撮像はその後の治療に大きく影響する
⚫︎ MRIを所有する医師は患者に脊椎手術を受けさせることが多い
◻︎ 参考文献 ◻︎
「腰痛」 第2版 医学書院