そよ風 note
ケネディ大統領とトラベル医師 ー慢性腰痛とトリガーポイントー
トリガーポイントの歴史の中で、象徴的な臨床例としてしばしば挙げられるのが、ジョン・F・ケネディ大統領の慢性腰痛です。
そして、その治療に深く関わったのが、トラベル医師です。
このエピソードは「腰椎(構造)の異常」と「筋由来の痛み」という視点が交差した歴史的な事例です。
■ ケネディ大統領の腰痛 ― 原因と経緯
ケネディ大統領の腰痛は、単一の出来事によるものではなかったと考えられています。
- 大学時代のアメリカン・フットボールでの負傷
- 第5腰椎の構造的問題
- 第二次世界大戦中のPTボート事件による外傷
複数の要因が重なり、慢性的な腰痛へと進行したとされています。
■ 手術とその限界
1954年、ケネディ大統領は上院議員時代、脊椎固定術などの外科的手術を受けました。
しかし痛みは十分に改善せず、さらに術後感染症を併発します。
再手術を受けますが、長年にわたり激しい痛みに苦しむことになります。
当時の医療は、画像所見による構造的な異常を中心に治療が組み立てられていました。
「構造的な異常を修復しても残る痛み」は、現代においても課題ですが、すでにここに存在していました。
■ トラベル医師の診断と治療
1955年頃から、トラベル医師が治療に関与し始めます。
トラベル医師は、痛みの原因を筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)と捉え、トリガーポイントへの局所注射を実施しました。
構造的な異常ではなく、筋・筋膜の機能的な異常に焦点を当てた診断・治療です。
記録によれば、トラベル医師は治療効果を報告しており、ケネディ大統領はその後もトラベル医師の治療を継続しました。
■ 1961年 ― 歴史的就任
1961年、ケネディが大統領に就任します。
そして、トラベル医師は、女性として初の大統領主治医(Physician to the President)に任命されます。
■ 椅子のエピソード
1960年の米大統領選のテレビ討論会で、ケネディ候補が腰痛対策として座り心地の良い椅子を使用したことで知られているのが「椅子の中の椅子」と呼ばれる The Chair(PP503)です。
慢性腰痛が日常生活や公的活動にも影響していたことがうかがえます。
■ もう一つの背景 ― アジソン病
ケネディ大統領は、アジソン病(副腎機能不全)も抱えていました。
大量のステロイド剤を長期服用していたことが知られており、これが感染リスクや組織の脆弱性に影響していた可能性も指摘されています。
慢性腰痛は、整形外科的問題ではなく、全身的背景を含む複合的な状態だったと考えられます。
■ この症例の重要性
ケネディ大統領は
- 腰(腰椎)に構造的な異常があった
- 構造的な異常に対する手術後も痛みが残存した
- 構造的な異常へのアプローチではなく、筋・筋膜へのアプローチが重要視された
という流れを示しています。
これは、現在の慢性腰痛治療にも通じる構図です。
トラベル医師は、ケネディ大統領暗殺後も職に留まり、リンドン・B・ジョンソン大統領の専属医師となりました。
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