そよ風 note
腰痛と腹筋 その① 腹筋神話の誕生
『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』
というのは常識すぎて、腰痛ではない人も知っているかもしれませんが
『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えるのはやめましょう!』
と、私は患者さんにお話しています。
以下の論文は『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』という、体幹安定性(コア・スタビリティ)の原理が、腰痛に対してどの程度通用するのかを明らかにしています。
『 The myth of core stability(体幹安定性の神話)』
https://www.cpdo.net/Lederman_The_myth_of_core_stability.pdf
著者の Eyal Lederman 教授 (https://www.doctorlederman.com)は、理学療法の博士であり、世界的に有名なオステオパス(オステオパシーを実践している治療家)です。
この論文は、2007年の発表以降、多くの治療家から支持されています。
その内容を、以下の4つに分けてご紹介します。
その① 腹筋神話の誕生
その② 筋力について
その③ 妊娠中と出産後
その④『運動療法で腰痛を改善する』という考え方が問題である理由
ご参考にしてください。
その① 腹筋神話の誕生
『体幹の安定性(コア・スタビリティ)』という原理は、1990年代後半に登場し、ケガ予防のためのトレーニングや腰痛に対するリハビリテーションとして広く受け入れられました。
腰痛の患者さんにおいては、腕や脚を素早く動かす際に、体幹筋のタイミングが無症状の人よりも遅れることを示した研究から派生しました。
そして、さまざまな影響と相まって、体幹トレーニングに蔓延する以下の『神話(仮説)』が誕生します。
1)脊椎を安定させるためには、特定の筋肉(※特に腹横筋)がより重要である。
2)腹筋が弱いと腰痛になる。
3)腹筋や体幹の筋肉を鍛えると、腰痛が軽減される。
4)他の筋肉とは別に働く、ユニークな「コア(体幹)」筋群が存在する。
5)強い体幹は、ケガを防ぐ。
6)脊椎の安定性と腰痛には関係がある。
※腹横筋とは:腹筋(総称)の1つ。このほかに外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋がある。
人の脊椎は不安定な構造なので、さらなる安定化は体幹筋の共収縮(さまざまな筋肉が共に収縮すること)によってもたらされることは間違いありませんが、その中でも特に注目されている筋肉が『腹横筋』です。
この筋肉は、体幹を安定させるための主要な筋肉であると信じられています。
その一方現在では、体幹のさまざまな筋肉が脊椎の安定性に寄与しており、その作用はさまざまな動作に応じて変化することも明らかになっています。
腹横筋は、直立姿勢の安定性に寄与していますが、その機能は腹壁(お腹の壁)を構成する他のすべての筋肉との相乗効果であり、それ以外の働きもしています。
例えば、発声や呼吸、排便や嘔吐などのために腹腔内(お腹の中)の圧力をコントロールしたり、内臓が飛び出すのを防いだりしています。
Gray's Anatomy(解剖の教科書) (36th edition 1980, page 555) によると、『腹横筋がない、または内腹斜筋と融合しているのは正常な変異である』とのことです。
このような人がどのように体幹を安定させているのか、腰痛に悩まされることが多いのか、興味深いところです。