そよ風 note
無視され続けた筋膜
筋膜 それは忘れられてきた器官
その存在をシンデレラのように無視され続けて数十年、筋膜は生命科学の分野の中で突然脚光を浴び始めました。
ほとんどの系統解剖学の解剖において事実上廃棄されていた期間、この無色の線維組織は、大部分がつまらない、自力で運動できない包装容器のように扱われていました。
この無視にはいくつかの理由がありました。
一つは、深層の艶のある筋肉や臓器と比較して、この組織はどこにでもあるけれども他と区別できる明確な境界がなく、無秩序な組織のようにみえる、というところにあります。
科学的に軽視されたもう一つのもっと重要な理由は、適切な測定機器がなかったということです。
X線撮影では骨を、筋電図では筋を詳細に研究することができましたが、筋膜の変化は測定が困難でした。
例えば、大腿筋膜あるいは腰部の筋膜の厚さは通常2mm未満なので、局所的に20%の厚さの増加があっても超音波画像では見分けられないほどわずかです。
しかし、施術者の手にかかると容易に触診可能であろうし、自身の動きの中で感じられるであろう増加量です。
この不幸な状況は近年大きく変わりました。
超音波測定の進歩、同じく組織学の進歩は、結果的に筋膜に関する研究の劇的な増加をもたらしました。
臨床現場の施術者である手技療法、物理療法、瘢痕治療、腫瘍学、外科およびリハビリテーション医学など多くの分野の関係者が非常な関心を抱いて、この流れに乗ってきました。
「スポーツと運動の筋膜」より
https://www.roundflat.jp/produ
編著:Robert Schleip and Amanda Baker
監訳:竹内京子
出版社:ラウンドフラット
コラーゲンとエラスチン
私たちの身体は(骨、筋肉、血管、神経、心臓、内臓、脳までも)、『Fascia:ファシア』という『膜』で覆われていて『筋膜』はその一部です。
筋膜は、骨とともに身体を支えることから『第二の骨格(柔らかい骨格)』とも呼ばれています。
筋膜は『コラーゲン』と『エラスチン』という2つのタンパク質からできていて、ガーゼのような構造をしています。
コラーゲンには、引っ張る力に抵抗する性質『粘性(ねばる性質)』があるので、私たちの身体が一瞬で変形することはありません。
一方、エラスチンには、ゴムのように伸縮する性質『弾性(変形しても元の形に戻ろうとする性質)』があります。
この2つを合わせて『粘弾性』と言います。
エラスチンは元の長さの230%まで伸び、また元の形に戻ることができます。
耳や皮膚を引っ張ると伸びるのは『エラスチンの弾性』です。(子供の耳はよく伸びます)
ところが、エラスチンの弾性は、加齢や太陽の光によって、徐々に低下してしまいます。
エラスチンの弾性が低下すると、しなやかな(柔軟で弾力のある)動きが徐々に失われ、筋膜のトラブルが起こりやすくなります。
エラスチンの弾性の低下は、30代後半から起こりやすくなると言われています。
筋膜の状態が悪くなった時に起こること
筋膜の状態が悪化しているサイン
次のような変化は、筋・筋膜のコンディションが低下(筋・筋膜の過緊張緊と滑走・すべりの不全)しているサインです。
① 動きが悪くなった(可動域の減少)
・首・肩・膝などが硬く感じる
・腕(肩)が上がりにくい
・ズボンを履くときに脚が上がりにくい
・靴下が履きづらい
・足の爪を切るのが困難
・お風呂掃除など、前屈みの姿勢がつらい
② 何げない動作でも「痛み」や「ぎこちなさ」を感じる
・歩く
・寝返りを打つ
・ベッドから起き上がる
・服を着替える
③ 体の柔軟性が落ち、弾力がなくなる
・以前のようにしなやかに歩けない
・歩行や階段の昇り降りで、ドスンドスンと衝撃が大きくなった
④ 姿勢が崩れやすくなった
・気がつくと猫背になっている
・胸を張る「よい姿勢」を保つのがつらい
⑤ 痛みがなかなか消えない・・・
「治療を受けるとその日は楽になるのに、翌日にはまた痛みが戻ってしまう…」
このような場合は、慢性的な痛みに移行している可能性があります。
痛みが慢性化してしまうと…
「痛む部分だけ」に対するアプローチでは、改善が頭打ちになってしまいます。
たとえば腰痛の場合
・腰に電気を当てる
・腰の周りをマッサージする
・牽引をする
これらの療法は、症状を一時的に和らげる助けになることはあります。
しかし、患者さんが本当に望む結果 ー「戻らない変化」ー に辿り着くことはありません。
痛みは「原因」でなく「結果」
慢性的に痛みを感じている場所は、原因ではなく結果として現れています。
もちろん痛みが出ている場所「結果」にもアプローチしなければいけませんが、その痛みを慢性化させている「原因」にアプローチしなければいけません。
筋膜も皮膚と同じように、頭の先から足先まで、上下・前後・左右に繋がっています。
身体は部分だけで機能することはなく、身体全体で「1つのユニット」として機能します。
慢性的な痛みの場合は「腰が痛い=腰が悪い」では、ないのです。
平成の時代を通して、慢性的な痛みや身体に対する考え方(概念)は大きく変わりました。
世界的な「パラダイムシフト」が起こりました。
かつては「痛い場所=悪い場所」「局所を治療すれば治る」という考え方が主流でしたが、それでは腰痛をはじめとする多くの慢性痛はよくなりませんでした。
これは、いわば昭和の身体観(考え方)です。
現在は、令和です。
今では、痛みを全身のつながりや心とからだの問題として捉えることが常識になりました。

