そよ風 note
牽引療法には効果がない?
『腰痛のナゼとナゾ』 菊池臣一著 より
牽引療法とは脊椎を上下にひっぱり、腰椎の圧迫を軽くして腰痛を軽減する目的で行われるもので、牽引することで腰部の安静や異常な筋肉緊張の軽減、椎間板内圧の減少などが得られると考えられてきました。
現在も、整形外科医院や接骨院などで、脊椎の病気に対する局所の安静などを目的に、日常的な診療プログラムのなかに牽引療法を組み込んでいるところが多くみられます。
私も以前は入院患者さんに、治療を受けているという意識を持ってもらうために使用していたことがありました。
しかし、外来にこられる患者さんには使用していません。
その理由は、15〜20分ほどの牽引療法を受けるために、往復1時間以上もかけて通院するなら、その時間を腰痛の軽減に効果があるとされる日常的な仕事や家事、あるいは運動にあてたほうがよいのではないかと考えたからです。
しかし、これだけ普及しているにもかかわらず、牽引療法が腰痛や坐骨神経痛に有効であるという科学的な根拠は報告されていません。
逆に、イギリスの腰痛ガイドラインでは「牽引療法に関しては、治療効果がないことが証明されている」と明言しています。
さらに、牽引療法を行いながら安静に寝ていると、関節のこわばり、筋肉の萎縮、骨密度の低下などの危険があるので、腰痛の患者さんには用いるべきではないと言及しています。
単純に考えても、腰の椎間板の変性によって低くなった身長を元の状態に戻そうとしたり、腰椎の彎曲したカーブの度合いを改善したりするためには相当な力が必要になるでしょう。
牽引によりかえって腰痛を悪化させる可能性も否定できません。
患者さん本人が牽引後に気持ちよく感じられるのであればよろしいのですが、効果が認められないと実感されたときは、漫然と続けていないで他の療法に切り替えたほうがよいでしょう。
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腰痛の治療に関与している専門家で、骨盤牽引が治療手段として真に有効であると思っている人は、あまりいないのではないでしょうか。
『続・腰痛をめぐる常識のウソ』 菊池臣一著 より
本物の神経障害
本物の神経障害は、日内変動がなく、神経の機能低下(運動神経なら麻痺、感覚神経なら感覚低下)による症状は、完全に持続性です。
麻痺とは、神経が何らかの原因で正常に機能していない状態です。
自分の思うように手足などを動かすことができず、触れても針で突いても知覚が鈍いか感覚がない状態です。
熱い冷たいの感覚も、痛みもしびれもありません。
そして、症状の強さは常に同じで、強弱がなく、波もなく、緩解(軽減または消失する)することはありません。
それに対して、症状の強さが常に同じではなく、強弱があり、波もあり、緩解(軽減または消失する)ことがある『いわゆる坐骨神経痛』は、本物の神経障害ではありません。
その① 腰痛
腰痛の原因は椎間板ヘルニアであると、ふつう信じられている。
椎間円板は椎骨の間から突出して、感覚線維を含む脊髄後根を圧迫すると信じられている。
椎間板ヘルニアの頻度は、痛みをもつ人たちともたない人たちで同じである。
椎間板ヘルニアがあって痛みをもつ人々が、外科手術以外の方法で治療されると椎間円板の突出した部分は消えたり、消えなかったりする。
しかしこれは、まだ痛いか、それとも痛くないかに関係しない。
椎間円板の役割についての外科医の混乱は、突出した椎間板を取り除く手術の割合が、国によって大きく異なることに反映されている。
10年前に、10万人当たり、英国で100人、スウェーデンで200人、フィンランドで350人、米国で900人であった。
この割合は現在下がり続けていて、神話がばらまかれて、少数の人の利益になるが多くの人の不利益になるような不名誉な時代は終わった。
不利益を受けたある人たちは、手術の結果、明らかにいっそう悪くなった。
代替医療の開業者たちは、椎骨の配列異常、神経の拘扼、関節障害など、他の多数の原因を挙げているが、今のところ、これらの原因を納得できる形で示したものはない。
原因の1つに損傷を加えるのは自然であろうが、腰痛患者の大多数に損傷の証拠はない。
航空機製造会社ボーイングのような会社の大掛かりな調査で、腰痛を訴える人の割合は、事務職労働者と重い物を持ち上げる工場労働者で同じであることが繰り返し示された。
したがって、激しい、あるいは並外れた運動が腰痛をきたすという証拠はない。
ある筋肉はいつも収縮状態にあって、脊椎をふつうと異なる形に傾けている。
自由な随意運動はなく、硬結(しこり、stiffness)を触れることができる。
痛みを生じる運動を妨げるため、背中を副子で固定したような状態を作り出そうとして筋肉が収縮していれば、筋収縮は痛みに続発したものかもしれない。
疼痛学序説 腰痛より
25年前の本に書いてあること
この本は1999年にイギリスで出版された
『PAIN The Science of Suffering(痛み:苦痛の科学)』の日本語版
『疼痛学序説 ー痛みの意味を考えるー』(南江堂 2001年)です。
この本も大阪のセミナーに向かう新幹線の中で読んでいたので、20年ほど前に購入したと思います。
著者のPatrick D. Wall(パトリック・ウォール) は、偉大な神経科学者であり、20世紀最大の疼痛学者の1人である。とこの本でも紹介されています。
パトリック・ウォール(1925 – 2001)は、痛みを科学する人、痛みの専門家です。
痛み治療に携わる人で、知らない人はいないでしょう。
25年前に出版されたこの本には、椎間板ヘルニアもヘルニアに対する手術もすでに疑問視されていることが書かれています。
筋筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome)の説明もあります。
その③ 筋筋膜性疼痛症候群
筋筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome)の痛みは1つの領域に限局している。
圧迫が痛みを生じる圧痛点(トリガー点)がある。
このときの痛みは、遠隔部に拡がり、患者が訴えていた痛みに似ている。
トリガー点の下に、ピーンと張った筋肉の帯を触れる。
この帯にある筋肉を伸展したり、この帯に局所麻酔を注入したり、針を刺したりすると、痛みは緩和する。
患者はトリガー点やピーンと張った帯のある筋肉を動かせないかもしれない。
あるいは、その筋肉を動かせば痛みが誘発される。
痛みが6ヶ月あるいはそれ以上続くと、予後がだんだん悪くなる。
圧痛点の局所治療は一時的緩和を生じるが、圧痛は戻ってくる。
多くの医師たちは、局所の原因がない局所性の痛みはありえないと思い込んでいる。
したがって、局所性の原因を証明できないので病気は存在しないと結論する。
疼痛学序説 筋筋膜性疼痛症候群より