そよ風 note
筋肉とカルシウムの関係を解き明かした日本人研究者
筋肉とカルシウムの関係を解き明かしたのは、日本人研究者でした。
1943年、東京大学の動物生理学者・鎌田武雄教授(1901−1946)は、アメリカの生物学者・ハイルブランの提唱を受け「筋肉の収縮にはカルシウムイオンが関与している」という研究結果を発表しました。
この発表は戦時中、日本の雑誌(英語論文)に掲載されたため、しばらくの間は世界にほとんど知られなかったそうです。
それから25年後の1968年、同じく東京大学の江橋節郎教授(薬理学・分子生物学者/1922–2006)が、「カルシウムイオンが筋肉の収縮と弛緩の両方をコントロールしている」という "江橋先生のCa(カルシウム)説" を発表しました。
江橋教授はさらに、カルシウムイオンを受け取るたんぱく質「トロポニン」を発見・命名し、筋肉の収縮と弛緩のエネルギー源「ATP(アデノシン三リン酸)」の役割も明らかにしました。
しかし、当時の生化学者は「生体内で重要な働きをするのは複雑な有機物質(炭水化物やたんぱく質など)であり、無機物なカルシウムが筋肉の収縮と弛緩に関わるはずがない、まったく不要だ」という信念があったため、江橋教授のCa説はなかなか受け入れられませんでした。
それでも地道な研究を重ねた結果、江橋先生のCa説は世界に認められ、筋生理学の基礎(常識)となったのです。
トリガーポイントに取り組んでいる世界中の治療家が、「筋肉が伸び縮みするしくみ」から「トリガーポイントの形成と慢性化するしくみ」を正しく理解することができるのは、鎌田武雄教授と江橋節郎教授の先駆的な研究のお陰なのです。
・座長のハンス・ウェーバーが「討議の結果、カルシウム説は明らかに否定された」と宣言するや、娘のアンネマリー・ウェーバーは激昂して絶叫し、エバシは日本語でわめいた。皆は腹をかかえて笑った。
・「私はそうは思わない。が、したいようにしなさい(I don’t think so, but you may do it)」
・「たぶん君は正しいのだろう。しかし、私はカルシウムが好かんのだ。(You may be right, but I don’t like calcium)」
・「おまえはまだそんなばかなことを信じているのか(Do you still believe that claxzy idea?)」
・世の中の生化学者はこぞってカルシウム説を否定していた。
江橋節郎 東京大学名誉教授(サイエンティスト・ライブラリー)より
【参考資料】
「筋収縮の生理学」江橋節郎・1984
「江橋先生と筋興奮収縮連関のCa説」遠藤實・2007
トリガーポイントと拘縮ができるしくみ
トリガーポイントと拘縮(こうしゅく)の形成には、筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が高い状態を持続することが深く関係しています。
拘縮とは、通常の筋肉の収縮とは異なり、脳からの電気信号なしで持続的に生じますが、可逆的な(元の状態に戻り得る)収縮です。
これは、筋肉の収縮と弛緩におけるカルシウムイオンの役割が、機能不全に陥ることで引き起こされます。
正常な筋肉の収縮と弛緩におけるカルシウムイオンの役割
脳から筋肉へ「収縮せよ」という指令(電気信号)が送られると、筋肉と神経がつながっているところ(神経筋接合部)からアセチルコリン(神経伝達物質)が放出され、最終的に、カルシウム貯蔵庫(筋小胞体)からカルシウムイオンが放出されます。
放出されたカルシウムイオンは、筋肉の線維を構成するアクチンフィラメントとミオシンフィラメントの間に滑り込み、両者の結合を促します。
この結合により、互いのフィラメントが引き寄せられて筋肉が収縮します。
収縮後は、カルシウムイオンが筋小胞体へと回収され、筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が低下し、筋肉は弛緩します。
トリガーポイントと拘縮ができるしくみ
筋肉の使いすぎやストレス、または損傷などによって筋肉が過剰に収縮すると、このプロセスに異常が生じて、以下のしくみでトリガーポイントと拘縮が形成されます。
1.アセチルコリンの過剰放出
筋肉の過剰な収縮により、神経筋接合部からアセチルコリンが過剰に放出されます。
2.筋小胞体からのカルシウムイオン過剰放出
過剰なアセチルコリンが刺激となり、筋小胞体から大量のカルシウムイオンが放出されます。
3.カルシウムの回収不全による筋肉の持続的な収縮
筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が高止まりすると、カルシウムポンプの働き(回収)が追いつかなくなります。
この状態が続くと、アクチンとミオシンが離れられなくなり、持続的な収縮が生じます。
4.ATP不足とエネルギー危機
ATP(アデノシン三リン酸)とは、「筋肉の電池(ガソリン)」のようなものです。
筋肉の「収縮」と「弛緩」には、ATPがエネルギー源として使われます。
エネルギー危機とは、筋肉が収縮し続けることで局所の血流が悪化(虚血状態)し、筋肉が弛緩するために必要なエネルギー源(ATP)を十分に作り出せなくなることです。
5.悪循環の発生
ATPの不足はカルシウムポンプの働きをさらに低下させ、カルシウムイオンの回収を妨げます。
これによりカルシウムイオン濃度が高い状態が維持され、筋肉の持続的な収縮が続くという悪循環に陥り、トリガーポイントと拘縮が形成されます。
慢性的な腰痛が改善しない、根本的な理由
先日、慢性的な腰痛でお悩みの60代の女性が来室されました。
これまで3つの整形外科を受診し、レントゲンやMRIの結果から「変形性腰椎症(加齢による背骨の変形)」「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」などと診断されたそうです。
医師からは「手術をするほどではない」と言われて安心はしたものの、痛み止めを飲んでも理学療法(電気や牽引)に通っても腰痛は一向に改善せず・・・半ばあきらめかけていたといいます。
そんな中、娘さんがしまだのHPをご覧になり、「お母さんは、これ(筋膜性疼痛症候群)だよ、ここだよ」と確信して来室されたとのことでした。
慢性的な腰痛が改善しない、根本的な理由
この女性のように、処方された薬を飲みながら理学療法に通っても、多くの慢性的な腰痛(に限らずですが・・・)は、なぜ改善しないのでしょうか?
その もっとも根本的な理由 を、ある本の中で、とてもわかりやすいたとえで説明している一節がありましたので、ご紹介します。
** 引用:『複雑な症状を理解するための トリガーポイント大事典』より **
現在の医療には、失望させられる場面に遭遇することがあります。
時には、無駄とさえ感じるかもしれません。
例えば、慢性的な腰痛がある人が医療に頼ろうと決心したとします。
広範囲にわたる高価な検査を受けた後、「どうやらあなたには慢性的な腰痛があるようです。しかし、40歳を過ぎれば、誰でも腰に何らかの病状があるものです。」と告げられるかもしれません。
この医療従事者は、MRIなどの画像により腰部の状態を観察し、目に見える病態が症状を引き起こしていると信じ切っています。
つまり、画像に映ったものを治療しようとしており、患者自身を見ようとしていません。
また、画像には映らない軟部組織には目を向けられません。
そのため、画像検査では正常に見えても、患者は痛みを感じています。
このように、画像検査などでわかる病態が患者の症状を引き起こしているとは限りません。
これは、電話の写真を見ればそれが電話だということがわかりますが、写真からはその電話が鳴っているかどうかはわからないことと同じです。
電話そのものをよく観察しなくてはならないのです。
出典:『複雑な症状を理解するための トリガーポイント大事典』
著:Devin J. Starlanyl /John Sharkey
監訳:伊藤和憲
翻訳:皆川陽一・皆川智美
緑書房 2017年
『電話の写真を見ればそれが電話だということがわかりますが、写真からはその電話が鳴っているかどうかはわからないことと同じ』ように
『レントゲンやMRIなどの画像を見れば背骨の変化やヘルニア、脊柱管が狭窄しているということがわかりますが、画像からはその患者さんが痛みを感じているかどうかはわからない』のです。
ですので。
私たちは、患者さんの 痛みストーリー を伺いながら身体をよく観察(触診)して、画像には映らない、患者さんが痛みを感じる原因となる軟部組織(筋・筋膜)の問題 『トリガーポイント』を探し出さなくてはならないのです。
施術後、女性は「希望がみえた」と笑顔で帰宅されました。
これまでに5回の施術を受けていただきましたが、「腰の痛みがとても楽になった」と施術者冥利に尽きる言葉もいただきました。
私たちが道案内を間違わなければ、多くの患者さんは希望する結果に辿り着くことができます。
けれど、もしも間違った道を案内してしまえば、行き止まりか、時には引き返すことのできない結果に辿り着いてしまいます。
「こむら返り」 について
◾️『こむら返り』とは
主に、ふくらはぎの筋肉が異常に収縮して痙攣(けいれん)を起こす状態です。
強い痛みを伴いますが、多くは数分でおさまります。
「こむら」とはふくらはぎのことですが、足の裏や指、太ももなど、体のどこの筋肉でも起こります。
◾️ 筋肉が異常に収縮する原因
・筋肉の制御機能の低下
筋肉には、筋肉の伸張(伸びすぎ)と収縮(縮みすぎ)を調整するセンサー(筋紡錘と腱紡錘)がありますが、縮みすぎを防ぐ腱紡錘の働きが低下すると、筋肉が異常に収縮して痙攣を起こします。
・マグネシウム不足
マグネシウムは、カルシウムやカリウムの働きを調整して、筋肉の正常な動きを保つために不可欠です。
マグネシウムが不足すると、腱紡錘の働きが低下します。
・脱水、冷え、妊娠、加齢など
発汗による水分とミネラルの喪失や血行不良が、腱紡錘の機能を低下させて痙攣を誘発します。
◾️ 起こりやすいタイミング
・運動中
多汗による脱水、準備運動不足、筋肉疲労など
・就寝中
就寝中はつま先が伸びてふくらはぎの筋肉が縮んだ状態にあるので、筋肉が刺激を受けると収縮しやすいため
・妊娠中
ミネラル不足になるため
・加齢
60歳以降は腱紡錘の機能が衰えるため
◾️ 予防法
・ミネラル補給
マグネシウム:海藻類、ナッツ類など
カルシウム:乳製品、大豆製品、小魚など
カリウム:いも類、バナナ、キウイなど
・水分補給
運動中はスポーツドリンクなどで水分とミネラルを補給しましょう。
就寝前にはコップ一杯の水を飲むことも有効です。
・冷え対策
靴下の着用などで保温
◾️ 注意すべき場合
それでも就寝中にこむら返りを繰り返す場合は、下肢静脈瘤、肝硬変、甲状腺機能低下症、腎不全、糖尿病などの病気 が隠れている可能性があるため、静脈瘤専門のクリニックや循環器内科 などの受診をお勧めします。(利尿剤や下痢による脱水も誘因になることがあります)
下肢静脈瘤が重症になると、こむら返りは起こりにくくなるそうです。
お一人おひとりの 『痛みストーリー』
慢性的な痛みでお困りの患者さんには、お一人おひとりの『痛みストーリー』があります。
『痛みストーリー』には『患』と『トリガーポイントを見つけるためのヒント』が隠されているので、はじめての方からは『痛みストーリー』をじっくりと聴かせていただきます。
痛みの当事者は患者さんですから、どんな時に、どこにどんな痛みを感じて、どれだけ辛いのかは、患者さんにしかわかりません。
そして、患者さんには患者さんの思いや考えもあります。
『こんなに話を聞いてもらったことはなかった』とおっしゃる方もいますが、患者さんが話したいことも話せなければ、不安や不満を抱えて帰宅することになり、施術の結果にも大きく影響することになります。
患者さんの『患(かん)』を辞書で調べると『うれえる・心配・苦しみ』と書いてあります。
そして『うれえる』は
① 悪い状態になるのではないかと心配する
②(よくない状態を)嘆き悲しむ
とあります。
『患』は『心』に『串』と書きます。
私は、『心の串』=『うれえる・心配・苦しみ』 だと思っているので、心の串を取り除くことも施術だと考えています。
心の串を吐露されて時には涙を流される方もいますが、おひとりさま対応だからこそ話していただけるのだと思います。
痛みは『感覚的な痛み(からだ)』と『情動的な痛み(心)』の二面性です。

