そよ風 note
③『しびれを感じるしくみ』
『しびれ』も『電気信号』です。
腰痛、頭痛、めまいなどとともに、手足のしびれも訴えの多い症状の一つです。
正座をしているときや正座から立ち上がったときに『ジンジン』『ビリビリ』『チクチク』する、あの感覚です。
痛みを同時に感じることも、数分で消えてしまうこともあります。
<しびれを感じるよくある原因>
1:長い時間の圧迫(正座や腕まくらなど)
2:脱水(脱水症や熱中症など)
3:血液の循環不全(動脈硬化・静脈瘤・リンパ浮腫など)
4:神経系の疾患(糖尿病による神経障害・帯状疱疹など)
5:パニック発作(過呼吸症候群)
6:心理的なストレス(心身反応)
しびれの原因は『すべて神経(系の疾患)』とは限りません。
筋膜性疼痛症候群で起こるしびれは『血液の循環不全』によるものです。
(心理的なストレスもによるしびれをともなっている場合もあります)
しびれは、痛みを伝える神経『Aδ線維・C線維』と感覚専門の神経『Aβ線維』が伝えています。
Aβ線維は、神経のどこかに異常が生じたときに起こるしびれを伝えます。(主に神経系の疾患)
痛みやしびれを伝える神経
(しびれ専門の神経はありません)
神経は太くなるほど早く伝わります
筋膜性疼痛症候群の場合、以下のような時にしびれを感じやすくなります。
・血管の持続的な収縮によって、血流量が低下した時
『ジンジン(ジーンジーン)』
C線維による、鈍い痛みに近い(正座をしているときに感じる)しびれ
・血管の拡張によって、低下していた血液量が急激に増加した時
『ビリビリ』⇨『チクチク』へ
Aδ線維による、はっきりとした痛みに近い(正座を解除して立ち上がってから感じる)しびれ
また、京都大学の研究により、感覚神経にある痛みセンサー(TRPA1)が低酸素により過敏化することがわかりました。
血液の流れが悪くなった後に一気に血流が再開すると、大量の活性酸素(身体にダメージを与えたり、痛みを引き起こしたりする)が発生します。
この活性酸素が、過敏化した痛みセンサーを活性化することにより、強いしびれや痛みが生じることも明らかになりました。
※『痛みセンサー』→ 『低酸素』→『過敏化』→『活性化』
このしくみはトリガーポイントと同じです。
このように、血流の急激な増加でもしびれを感じますが、そもそもは『血液量の低下』です。
『血流量の低下』が起こらなければ 『急激な増加』は起こりません。
トリガーポイント(過敏化した受容器)が鎮静化すれば、血行障害も徐々に改善し『急激な増加』が起こらなくなります。
④『痛みやしびれが慢性化するしくみ』
痛みやしびれは、以下のしくみで慢性化していきます。
このしくみを『痛みの悪循環』と言います。
※1:痛み信号が『脊髄(小さい脳)』に入ると、脊髄の反射により筋肉が収縮する。
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※2:痛み信号が『脳』に届くと、交感神経が反応して筋肉と血管が収縮する。
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※3:ストレスにより『痛みの閾値』が下がる。
(痛みを感じやすくなり、痛み再発のきっかけにもなる)
痛みや身体に対する誤った思い込みは、慢性化に拍車をかける。
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※4:交感神経の緊張(アドレナリンの過剰分泌)により、血管・筋肉が持続的に収縮する。
アドレナリンの短期的な分泌は、身体のパフォーマンスを上げるのによい働きをしますが、長期的な分泌は賢明ではありません。
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※5:睡眠の乱れ(夜間の不眠や日中の眠気)により『痛みの閾値』が下がる。
(痛みを感じやすくなり、痛み再発のきっかけにもなる)
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※5:筋肉は運動神経と交感神経によってコントロールされている。
交感神経緊張 =『闘争か逃走か(闘うか逃げるか)』反応
その反応の準備として(以下の理由により)、背中の筋肉やハムストリング、僧帽筋などの大きな長い筋肉が緊張する。
・大きなトルク(関節を動かすための力)を生み出すことができるから
・複数の関節をまたいでいるから
・大きく短縮することができるから
これらの筋肉が繰り返し緊張すると『硬さ・凝り・痛み』(肩こり・腰痛・膝痛など)を感じやすくなる。
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※6:血行障害により、局所的に低酸素状態(酸欠)になる。『知覚の異常』も起こり『しびれ』を感じやすくなる。
このしくみが繰り返されると、痛み受容器が過敏化して些細な(肉体的・精神的)ストレスにも反応するようになり、症状は慢性化していきます。
⑤『痛みやしびれが改善するしくみ』
腰痛をはじめとする慢性化した痛みには、痛みを起こしている部位の問題だけではなく、痛みに対する心理的な因子(不安や恐怖)も痛みの悪化や慢性化に関与しています。
『トリガーポイントの鎮静化(身体の機能的な回復)』と『痛みを正しく知る(心理的な支援を得る)』ことで、 痛みに対する不安や恐怖が軽減し、多くの痛みは自然に治っていくのです。
痛みやしびれは以下のしくみで改善していきます。
このしくみを『改善の好循環』としました。
※1:トリガーポイントが鎮静化すると、些細なストレスに反応しなくなる。
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※2:痛み信号の発信回数が減ると、痛みが小さくなり、痛む時間も短くなる。
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※3:『痛みを知る』ことで、痛みに対する不安や恐怖が軽減する。
『痛みの閾値』が上がる。(痛みを感じにくくなる・痛み再発の防止にもなる)
たとえ痛みを感じても、以前のような不安や恐怖がなくなる。
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※4:交感神経の緊張が緩むと、アドレナリンが過剰に分泌されなくなる。
血管が拡張して血行がよくなる・筋肉の緊張が緩和する・眠れるようになる
『痛みの閾値』が上がる。『眠りは王様』
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※5:血液の流れが改善すると、しびれを感じなくなる。
急激な血流量の増加も起きなくなる。
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※6:酸素と栄養素が十分に行き届くと、発痛物質(ブラジキニン)の産生が減少する。
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※1:受容器が反応する回数が減ると、トリガーポイントはさらに鎮静化する。
施術を重ねることで
トリガーポイントが鎮静化していく
+
痛みやしびれのしくみを知る
⇩
動いてみる
⇩
『前ほど痛くないな・・・』
『痛みも長引かないな・・・』
『動けるぞ・・・』
⇩
痛みや身体に対する
不安や恐怖が軽減していく
⇩
ポジティブになる
自信がもてる
笑えるようになる
気分も高揚する
⇩
痛みの閾値が上がる
⇩
痛みなく、動けるようになる
⇩
さらなる好循環
⇩
『そう言えば、最近痛くない。』
<よくある会話>
私:「最近、◯◯の痛みはいかがですか?」
患者さん:「あっ、◯◯の痛み。忘れてました。」
私:「ならよかったです。そのまま忘れちゃってださい。』
(^○^)
筋膜はボディスーツ
皮膚の下には、浅いところにある『浅筋膜』と、深いところにある『深筋膜』があります。
筋膜は、頭のてっぺんから足の先まで繋がっていて、連続体として機能しています。
皮膚も連続体ですが、その下には筋膜という『ボディスーツ』を重ね着しているのです。
皮膚を部分ごとに分けることができないように、筋膜も分けることはできません。
身体が倒れないように姿勢を保ちながらも複雑な動きができるのは『筋膜・ボディースーツ』のおかげです。
顎関節症とトリガーポイント
顎関節症は、程度の差こそあれ、2人に1人は経験すると言われています。
私も経験者の1人なので、あの痛みと辛さはよくわかります。
顎関節症を引き起こす要因を1つに絞ることはできませんが、噛み合わせの悪さや身体の歪みは含まれないと言われています。
近年では、歯ぎしりや食いしばり、心理社会的なストレス、歯科治療での開口保持などが主な要因として挙げられています。
現在、顎関節症は以下の4つに分類され、「筋性」と「関節性」の2つに分けることができます。
<顎関節症の病態分類(2013)>
1型:咀嚼筋痛障害 「筋性」
2型:顎関節痛障害 「関節性」
3型:顎関節円板障害 「関節性」
4型:変形性顎関節症 「関節性」
※ 重複する場合もあります。
この中で、顎関節症の患者さんの多くは、1型:※ 咀嚼筋痛障害(口を大きく開けられない、ご飯を食べるときに痛いなど)です。
※ 咀嚼筋(そしゃくきん)とは:下顎を上下に動かして、あくびをしたり、食べものを噛んだりするときに使う筋肉。
①:側頭筋(そくとうきん)
②:咬筋(こうきん)
③:外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
④:内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
筋膜性疼痛症候群(トリガーポイント)では、咀嚼筋を以下のよう捉えます。
① 側頭筋:顎関節症の主要な原因となる筋肉。
② 咬筋:重度の開口制限の原因となる筋肉。(身体の中でもっとも強力な筋肉)
③ 外側翼突筋:顎関節症を治療する際に鍵となる筋肉。
④ 内側翼突筋:顎関節症を治療するためには必要不可欠な筋肉。
※ ③と④は、顎の内側(口の中)にあるため触診が困難なことから、治療できる施術者は限られます。
『患者さんが顎の痛みを訴えているときに、内側翼突筋を治療しないのは間違っている』(Neuromuscular Therapy Manual より)
しまだでは、① 〜 ④ のすべてのトリガーポイントに治療をおこなうことにより、ほとんどの方が1回の施術で痛みなく開口できるようになります。
※ 発症から3ヶ月以上経過(慢性化)している場合、痛みなく開口できるようになっても噛むときに痛みが残るケースがあります。そのときはトリガーポイントのさらなる鎮静化のために継続した施術が必要になります。
以下の ①と② の症状が、1週間以上続いている方は早めにご相談ください。
【顎関節症の症状】
通常、口を大きく開けた場合、ご自身の指(人差し指・中指・薬指)が縦に3本分入ります。
顎関節症になると、指が2本分、またはそれ以下しか入らなくなります。
① 顎が痛む
・口の開け閉め、食べ物を噛むときなどに痛む
・硬いものが食べられない
② 口を大きく開けられない
・縦に指が2本程度、またはそれ以下しか入らない
・お寿司やおにぎりが食べられない
・大きなあくびができない
※ 口を開け閉めしたときに「カクカク」「ジャリジャリ」といった音がすることがありますが、症状が音だけで痛みを伴わず、指も縦に3本入る場合は治療する必要はないとされています。
※ たとえ噛み合わせを治しても、顎関節症が改善するとは限りません。治療費が高額であったり、歯を削ったりする治療法を提示されたときは慎重になったほうがよいでしょう。
※『顎関節症の原因は不明ですので、噛み合わせが悪いとか、体のバランスに問題があるとか、いかにも原因治療としている宣伝に安易に惑わされないことを勧めます。』(厚生労働省のe-ヘルスネットより)
【症例1】
60歳代 女性
10年ぶりに右顎の痛みと開口障害発症。
主訴:口が大きく開けられない。ご飯を食べるのが痛い。
施術前:痛みを伴う開口制限(指が2本まで)
触察の結果、各咀嚼筋(口腔内は右上下部)にトリガーポイントを確認
施術後:痛みなく指3本分の開口可能となる
【症例2】
50歳代 女性
歯科の検診で30分ほど開口を保持した後、左顎の痛みと開口障害発症。
担当の歯科医師に相談したところ
「これは治らないので、マウスピースで様子をみましょう」
「最終的には手術になるかもしれません」とのこと。
主訴:ご飯を食べるのが痛い。口が大きく開かない。
施術前:痛みを伴う開口制限(指が2本以下)
触察の結果、各咀嚼筋(口腔内は左上部)にトリガーポイントを確認
施術後:痛みなく指3本分の開口可能となる
マウスピースも手術も不要になりました。
顎関節症は、時間の経過とともに自然に改善することもありますが、慢性化してしまうこともあります。
マウスピース(スプリント)を装着して数ヶ月経過をみることもあるようですが、慢性化を防ぐためにも1日も早く痛みなく開口できるようになる(トリガーポイントを鎮静化させる)ことが先決です。
顎関節症も筋膜性疼痛症候群(トリガーポイント)と捉えて対処すると、多くの患者さんが短期間でよい結果を得ることができます。