そよ風 note
その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている ! その②
日本は痛みの治療に関して、先進国の中ではもっとも遅れていて、患者中心の医療は、厚生労働省の調べによると、世界で遅れている科学技術のワースト10に入っていると報告されています。
なんと10〜20年もの遅れがあると言われているのです。
海外では、椎間板ヘルニアの手術はほとんど行われなくなってしまったそうです。
現在の整形外科の診断や治療法は、「痛みの生理学」の昔の言い伝えによるものなのです。
こうした古い理論と発想で痛みをとろうとしても、痛みはなくなりません。
そのことを知らない医師に治療を受けていることが、みなさんを苦しめている慢性痛が治らない、根本の理由なのです。
「その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている!」より
著者:医師、医学博士 加茂 淳
出版社:廣済堂出版
その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている ! その①
慢性の痛みに悩まされている方は、現在、日本国内で約2,300万人もいると言われています。
パーセントでいえば、日本の全人口の19パーセントにものぼる方が慢性痛を抱えているわけですから、見すごすことはできません。
ところがこれらの痛みに関しては、これまでも有効な治療がほとんどなされてきませんでした。
それはなぜでしょう。このような慢性痛は治らないのでしょうか?
そうではありません。
何をしても痛みがなくならないのは、そもそも診断と治療法がまちがっているからです。
「骨や関節に異常がなければそのうち痛みは治まる」
「ヘルニアがあるから神経が圧迫されて痛いのだ」
「腰椎がすべり症を起こしているから痛みが生じているのだ」
「ひざの痛みは半月板が損傷しているからだ」など、
現在の整形外科治療で主流となっている考え方は、じつは100年も前からの生理学が発達していない時代の伝統的な考え方なのです。
驚かれたでしょうか?
「その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている!」より
著者:医師、医学博士 加茂 淳
出版社:廣済堂出版
スーパーヘルシーの秘薬 『PGC1−α』
運動をすると、筋肉から『PGC1−α』というスーパーヘルシーの秘薬が出現します。
PGC1−αが出現すると、エネルギーが補われて筋肉の萎縮を防ぐことができます。
その他にも、慢性炎症 を抑える作用、老化を防ぐ作用、認知機能と記憶力の低下を防ぐ作用があり、健康と若さを保つ重要な働きをしています。
しかし、弱い運動と強い運動(後述)では、分泌される物質が異なります。
強い運動を続けた場合は、炎症性サイトカインという物質が急増して慢性炎症を促進することになるので、弱い運動を続けることが大切です。
また、PGC1−αには筋力を増強する作用もありますが、弱い運動と強い運動では得られる筋肉も異なります。
強い運動(ランニング、水泳、筋肉トレーニングなど)をおこなっていると、大量のカルシウムが(一定の間隔で)放出されるようになり、速い収縮に適した筋肉が得られます。(筋肥大が起こり、筋肉隆々になります)
それに対して、弱い運動(持久運動)をおこなっていると、少量のカルシウムが(回数多く)放出されるようになり、持久力のある疲れにくい筋肉が得られます。
弱い運動とは、歩行(散歩)、駅の階段昇降、自転車での通勤、家事労働、買い物、農作業など、額に汗がうっすら浮かぶ程度の日常的に継続可能な有酸素運動です。
酸素を多く取り入れながらの運動は疲労が起こりにくいため、長時間の運動が継続可能になります。
健康と若さを保つには、ゆっくりした持久運動が適しています。
参考文献:『慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略』 半場道子著 医学書院 2018
腰痛と腹筋 その① 腹筋神話の誕生
『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』
というのは常識すぎて、腰痛ではない人も知っているかもしれませんが
『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えるのはやめましょう!』
と、私は患者さんにお話しています。
以下の論文は『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』という、体幹安定性(コア・スタビリティ)の原理が、腰痛に対してどの程度通用するのかを明らかにしています。
『 The myth of core stability(体幹安定性の神話)』
https://www.cpdo.net/Lederman_The_myth_of_core_stability.pdf
著者の Eyal Lederman 教授 (https://www.doctorlederman.com)は、理学療法の博士であり、世界的に有名なオステオパス(オステオパシーを実践している治療家)です。
この論文は、2007年の発表以降、多くの治療家から支持されています。
その内容を、以下の4つに分けてご紹介します。
その① 腹筋神話の誕生
その② 筋力について
その③ 妊娠中と出産後
その④『運動療法で腰痛を改善する』という考え方が問題である理由
ご参考にしてください。
その① 腹筋神話の誕生
『体幹の安定性(コア・スタビリティ)』という原理は、1990年代後半に登場し、ケガ予防のためのトレーニングや腰痛に対するリハビリテーションとして広く受け入れられました。
腰痛の患者さんにおいては、腕や脚を素早く動かす際に、体幹筋のタイミングが無症状の人よりも遅れることを示した研究から派生しました。
そして、さまざまな影響と相まって、体幹トレーニングに蔓延する以下の『神話(仮説)』が誕生します。
1)脊椎を安定させるためには、特定の筋肉(※特に腹横筋)がより重要である。
2)腹筋が弱いと腰痛になる。
3)腹筋や体幹の筋肉を鍛えると、腰痛が軽減される。
4)他の筋肉とは別に働く、ユニークな「コア(体幹)」筋群が存在する。
5)強い体幹は、ケガを防ぐ。
6)脊椎の安定性と腰痛には関係がある。
※腹横筋とは:腹筋(総称)の1つ。このほかに外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋がある。
人の脊椎は不安定な構造なので、さらなる安定化は体幹筋の共収縮(さまざまな筋肉が共に収縮すること)によってもたらされることは間違いありませんが、その中でも特に注目されている筋肉が『腹横筋』です。
この筋肉は、体幹を安定させるための主要な筋肉であると信じられています。
その一方現在では、体幹のさまざまな筋肉が脊椎の安定性に寄与しており、その作用はさまざまな動作に応じて変化することも明らかになっています。
腹横筋は、直立姿勢の安定性に寄与していますが、その機能は腹壁(お腹の壁)を構成する他のすべての筋肉との相乗効果であり、それ以外の働きもしています。
例えば、発声や呼吸、排便や嘔吐などのために腹腔内(お腹の中)の圧力をコントロールしたり、内臓が飛び出すのを防いだりしています。
Gray's Anatomy(解剖の教科書) (36th edition 1980, page 555) によると、『腹横筋がない、または内腹斜筋と融合しているのは正常な変異である』とのことです。
このような人がどのように体幹を安定させているのか、腰痛に悩まされることが多いのか、興味深いところです。
腰痛と腹筋 その② 筋力について
MVC(Maximum Voluntary Contraction)とは、人が最大努力で発揮する時の筋力(最大随意収縮)です。
現在わかっていることは、『腰痛の結果として、体幹の筋力が十分に発揮できなくなる可能性がある』ということだけですが、ここからも以下の『神話(仮説)』が誕生します。
1)体幹筋の低下が、腰痛につながる可能性がある。
2)体幹の筋力を高めると、腰痛が軽減される。
では、脊椎を安定させるためには、体幹の筋肉はどのくらい収縮する必要があるのでしょうか?
その答えは『ほとんど必要ではない』ようです。
実は、立っている(立位)時や歩いている時、体幹の筋肉はほとんど活動しておらず、立位では深部脊柱起立筋、腰方形筋(背中や腰の筋肉)は事実上、活動していないようです。
立位では体幹の屈筋(身体の前面の筋肉)と伸筋(身体の後面の筋肉)の非常に低いレベル(1%未満のMVC)の収縮によって安定化が達成され、約15kgの物を持ち上げる際でもMVCはわずか1.5%増加するだけです。
このように収縮レベルが低いということは、筋力の低下が脊椎の安定化にとって問題にならないことを示しています。
機能的な動作に必要な収縮がこのような低いレベルであるにも関わらず、なぜ筋力エクササイズをすすめるのでしょうか?
ほとんどの人は、このような低いレベルの活動をコントロールすることは不可能であり、意識することもできません。
たとえ意識できると思っていても、安定化に必要なレベルをはるかに超えた収縮が起こっているはずです。
日常生活やスポーツ活動において、ほかのすべての筋肉から独立して動作する『コア(体幹筋)群』が存在するかは疑問です。
・このような分類は解剖学的なものであり、機能的な意味はありません。
・いかなる運動も、筋肉の使用範囲は広範囲におよび、全身に影響します。
・特定の筋肉を、意識的に収縮させることは不可能です。
(例えば、腹横筋だけを収縮させることなどできません)
手を口に持っていく場合、脳は大胸筋や上腕二頭筋を収縮させることよりも、手を口に持っていくと「考える」のです。
体幹エクササイズと一般的なエクササイズを比較した研究では、どちらのアプローチも同じように効果的であることが証明されていますが、これは脊椎の安定化による効果よりも、運動が患者さんにもたらす『ポジティブな効果』によるものである、ということです。
現在では、患者さん自身が好む運動やより楽しめる運動を提供することが推奨されています。
もちろん、体幹エクササイズでも構いませんが、ほかの運動と同程度の効果しかないことを伝える必要があると、論文の著者は言っています。