そよ風 note
『こころ』と『からだ』その③
『感情』は、自律神経と内分泌系と免疫系を介して、身体的な影響を現します。
その中でも、感情の影響が顕著に表れる神経系の反応は、前回に引き続き『筋肉の収縮』です。
不快な感情を抱くと、首や背中や腰など日常的によく使われる筋肉(特に大きな筋肉)が硬く緊張して痛みを感じさせます。
そして、血管や内臓の筋肉も同様に緊張します。
胃は、感情が身体に現れる代表的な臓器です。
私たちは、胃の具合によっても感情の動きを感じ取っています。
気分良く上手くいっている時は食欲満点ですが、気分悪く上手くいっていない時は食欲が減退します。
また、胃と同様感情の変化を起こしやすい臓器の一つが、長さ8メートルもある腸 (特に結腸)です。
『結腸はこころの鏡』
こころが緊張すると結腸も緊張すると言われています。
その結果起こる症状は、便秘や下痢です。
頭の内外の血管も感情の影響を受けやすく、多くの頭痛の原因になります。
腰の痛みと背骨の変形
供覧しているレントゲンは、慢性的な腰痛でお困りだった女性(69歳)の腰部です。
※ レントゲンは医師の協力により撮影されたものです。
ご夫婦でラーメン屋さんを営んでいるが、『腰が痛くて立っているのが辛い』『立っていられなくなる』『仕事にならない』とのことだった。
整形外科、整骨、鍼灸、整体、カイロ、マッサージなど 22ヶ所 に行ったが、期待する効果を得ることができず、私が「23ヶ所目だ」とおっしゃっていた。
このレントゲン ① は、私が施術を開始した(腰がとても痛い)時のレントゲンです。
女性は『整形外科をいくつも行った(いつも同じ説明だった)ので覚えてしまった』と、以下のように私に説明してくれた。
○:『背骨が変形して、棘のようになっている。』
※ ○ 以外も同じように変形しています。これは「骨棘(こつきょく)」と言い、背骨や膝の関節にもよくある変形です。
↑:『椎間板が(2ヶ所)潰れている。』
※ これは「椎間板の狭小化」と言います。
そして。
『これは老化現象なので治らない。痛み止めを飲みながら、うまく付き合っていくしかない。』とのこと。
ところが。
施術を開始して2~3ヶ月ほどで改善が見られ、半年後には、ほぼ痛みなく1日立っていられるようになります。
本題はここからです。
その後、痛みが落ち着いても定期的に施術を受けにいらしていたが
施術開始から1年後(腰痛をほぼ忘れた時)の写真が、こちら ② です。
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① と比べてみましょう。
レントゲン ①(腰がとても痛い時)→ ②(腰痛をほぼ忘れた時)では、複数の医師から腰痛の原因と説明された、背骨の変形と椎間板の狭小化は全く変化(改善)していませんが、痛みは大きく変化(改善)しています。
1年経過しているので変形も進んでいるのかもしれませんが、たった1年では分かりません。
なぜなら、このような変形は、5年、10年、15年、20年・・・と時間をかけて、少しずつ変化していくからです。
この女性も、腰痛がなかった時でも、背骨の変形はすでに始まっていたはずです。
背骨と椎間板(特に腰椎)は、程度の差こそあれ、加齢とともに誰でも変形します。
私も、ご多分に漏れず、背骨は変形し椎間板は狭小化しています。
おまけに、その箇所はヘルニアですが、慢性腰痛も脚のしびれもありません。
加齢による背骨の変形や椎間板の狭小化は、ぎっくり腰や慢性腰痛の原因ではありません。
慢性的な腰痛で困っていない方は病院を受診する(レントゲンを撮る)ことがないので、自分の背骨が変形していることを知りません。
中年期以降に腰のレントゲンを撮れば「誰でも、それなりの変形がみられる」ということです。
『こころ』と『からだ』その②
身体は24時間止まることなく、私たちが寝ている間も身体を修正してくれています。
そのために可能な限り、全身のあらゆる『筋肉』を使っています。
首~肩のこりや腰痛などで現れる筋肉の緊張は、身体が修正をかけている結果、筋肉が正常に機能しているからこそ起こる現象でもあります。
筋肉の緊張は、身体が自らを保護したり調整している恩恵の証であって、決して「力ずくでその筋肉を揉みなさい」と言っている訳ではないのです。
身体からのメッセージを無視して「力ずくで揉んでしまったら」、身体はその刺激に(防御的)反応して、更に強く緊張してしまいます。
①『2つの痛み』
一口に『痛み』と言っても、痛みにはしくみの異なる『急性痛』と『慢性痛』があります。
この2つの痛みは、痛みを生じる原因も脳に伝える神経(痛みセンサー)も異なるので、対処法も異なります。
『急性痛』とは
身体のどこかが傷ついたり、何らかの理由で組織が炎症を起こしたりした時に感じる、『鋭い、どこが痛いのかはっきりした痛み』です。
例:転んで膝をぶつけた、指を切った、歯を抜いた、風邪をひいて喉が痛い、骨折をした など
このような『炎症がある痛み』は
・怪我をした(炎症を起こした)ところをよく冷やす。
・血行が良くなることは避ける。(入浴や運動、飲酒や辛い食べ物など)
・消炎鎮痛剤がよく効きます。
・とにかく安静です。
・日にち薬です。
誰もが経験したことのある、病気や傷にともなう『症状としての痛み』なので、傷や病気が治れば痛みも役目を終えて消えていきます。
また、急性痛は『痛みの大きさと経過日数』はほぼ比例するので、痛みがいつ頃消えるのか予測することができます。
下図「急性痛と慢性痛の経過の違い」を参照してください。
※ すべての炎症は痛みを伴いますが、すべての痛みが炎症を伴うわけではありません。
ギックリ腰や寝違いなどは、ある日突然に起こる痛み(急性痛)ですが、炎症を伴う(傷の)痛みではないので、即時改善が可能です。
※ 急性痛と慢性痛を比較した一例です。
『慢性痛』とは
3ヶ月〜6ヶ月以上(数ヶ月〜数年)にわたって続く、『ズーンという、鈍い、うずくような、(急性痛ほど)どこが痛いのかあまりはっきりしない痛み』です。
例:筋膜性疼痛症候群、頭痛(主に緊張性頭痛)、慢性腰痛、肩こり、ひざ痛、四十肩、いわゆる坐骨神経痛 など
※ 病院では、背骨の変形や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性の関節症(関節の軟骨がすり減っている)、などの診断を受ける場合があります。
このような『炎症がほぼない痛み』は
・冷やさずに温める。
・血行が良くなることを積極的におこなう。(入浴や体操、ウォーキングなど)
・消炎鎮痛剤は、あまり効きません。
・安静よりも、できるだけ動く(行動)です。
・日にち薬も効きません。
誰もが経験する訳ではない、けがや病気が治っても痛みが消えない、いくら検査をしても異常がないなど、急性痛とは異なる『ちょっと複雑な痛み』です。
慢性痛は、日によって痛みの大きさが変化することもありますが、『痛みの大きさと経過日数』は比例しないので、痛みがいつ頃消えるのか予測することができません。
上図「急性痛と慢性痛の経過の違い」を参照してください。
慢性痛は急性痛とは痛みを起こすしくみが異なるので、急性痛にはよく効く鎮痛剤も効かない場合がほとんどです。
そして、急性痛と大きく異なる点として、慢性痛は以下の要因が相互に絡み合っています。
・身体的な要因
トリガーポイント(過敏化した受容器)
・心理的な要因
『 不安・悩み・悲しみ・怒り・恐怖・抑うつ 』 などの精神的なストレス
『痛み』そのもの(痛みに対する誤解)もストレスになる。
・社会的な要因
まわりの人との人間関係(親子や夫婦の関係、職場の環境や人間関係など)
いつまでもよくならない痛みが、人間関係を悪化させることもある。
・睡眠(障害)
不眠、中途覚醒(断続的な睡眠)
不眠症の方は、慢性的な痛みを伴っているケースが多く、慢性的な痛みを抱えている方は、睡眠障害を伴っているケースが多い。
(睡眠の量や質の悪化が、痛みの再発や程度と関係している)
これは、慢性的な痛みやしびれが一元的なものではなく、多元的なものであることを示しています。(これらの要因が占める割合は、人によって異なります)
慢性的な痛みやしびれは、『心と身体(トリガーポイント)が相互に絡み合った結果(心身反応)』と捉えると、期待する結果を得ることができるようになります。
このような心身反応は、習慣化することがあります。
②『痛みを感じるしくみ』
『痛み』は『電気信号』です。
(神経が電気コードで、痛み信号はその中を通る電流をイメージしてください)
痛みを起こす物質や組織を損傷するくらいの強い刺激に『痛みの受容器』が反応すると、電気(痛み信号)が生じて、脳に伝わるしくみになっています。
慢性痛の場合は、痛みを起こす物質に反応しています。
このしくみによる痛みを『侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)』と言います。
『筋膜性疼痛症候群・トリガーポイント』による痛みも、同じしくみです。
慢性痛は、痛み信号が生じたところから『人が歩く(時速3.6km)くらいの速さ』で神経を通って脳に伝わり、『痛い』と感じています。
急性痛は、慢性痛とは異なる3倍くらい太い神経(Aδ線維)が『約15倍(時速54km)くらいの速さ』で伝えています。(緊急性が高いので速く伝わる)
痛み信号が発生したトリガーポイントが『痛みの第一現場』で、痛み信号を受け取っている脳は『痛みの第二現場』です。
たとえば
『右ひざが痛い・・・』と感じる時
<痛み信号の流れ>
『脳』
⇧
『背骨の中にある脊髄』※1
⇧
『末梢神経』※2
⇧
(痛み信号の発信)
『トリガーポイント』
※1 脊髄(せきずい):脳から連続する中枢(ちゅうすう)神経で、背骨の中に存在。
神経伝達の中継と反射機能(←慢性痛に関わる)をつかさどる。
※2 末梢(まっしょう)神経:脳と脊髄(中枢神経)から分かれて、全身の器官・組織に分布。
全身の器官・組織と中枢神経系(脳と脊髄)を結ぶ伝導路。
トリガーポイントの場合は、痛み(信号)を脳に伝える神経の先端にある『ポリモーダル受容器』というセンサーが『発痛物質 *ブラジキニン』に反応して、痛み(信号)が生じています。
*ブラジキニンは、数ある発痛物質(セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリンなど)の中でも『最強』と言われ、トリガーポイントが活性化した時は『それなりの強い痛み』になる。
ほとんどの筋骨格系(肩こり、腰痛、膝痛など)の痛みをはじめ、椎間板ヘルニアの神経圧迫によるとされている、いわゆる『坐骨神経痛』も『侵害受容性疼痛』です。
トリガーポイントによる脚の痛みやしびれは『坐骨神経痛』と間違えられることが多いです。
神経は痛みを伝えるものですが、神経因性疼痛(しんけいいんせいとうつう)のように神経そのものが傷つかない限り、痛みを起こすことはありません。(例:帯状疱疹の痛みなど)
多くの方が診断されている『坐骨神経痛』が、本当に神経因性疼痛であるならば、手技療法で改善するはずがありません。
慢性痛には侵害受容性疼痛のほかに『神経因性疼痛(しんけいいんせいとうつう) 』と『痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)』があります。
『神経因性疼痛』は神経そのものの損傷または機能的な異常で、難治性の極めて稀な痛みであり、手技療法の対象ではありません。
その痛みの代表的な原因としては、糖尿病(による神経障害)、帯状疱疹(後の神経痛)、幻肢痛、がんの化学療法などです。
また、今まで原因不明の痛みは『心因性疼痛』と呼ばれていましたが、昨年『痛覚変調性疼痛』となりました。
この痛みは『痛み』への不安や恐怖、その他のストレスや人間関係などの影響で、脊髄から脳にかけての神経回路が時間をかけて変調することで痛みを悪化させると考えられています。
線維筋痛症や過敏性腸症候群などが典型的な疾患です。