そよ風 note
筋膜を不健康にする悪者 その② 『けが』 『ストレス』 『使いすぎ』
『けが』
通常、筋膜は回復力が非常に高いので、小さなケガはあまり大きな問題にはなりません。
しかし、骨折や手術などは筋膜のトラブルにつながる可能性があります。
なぜなら、傷ついたコラーゲンは、その部位を修復しようとして、もつれたり交差したりしながら成長していくからです。
その結果、筋膜に癒着が形成され、徐々に酸欠になって痛み物質が産生され『トリガーポイント』が出来上がります。
筋膜は、フィットしたベッドシーツのようなものです。
したがって、筋膜のある部位を傷つけると、その障害を補うために他の部位を別の方法で動かしたりするようになります。
その部位だけでなく離れた部位にも痛みやしびれ、脱力感が現れることがあります。
この状態が長引けば長引くほど、それを代償するようになり、身体のあちこちに症状(痛みや運動制限)が現れるようになります。
『最初は肩こりだけだったのに、だんだんと腰や膝も痛みはじめ、いつしか腕もしびれてきた… 』
『ストレス』
ストレスは筋膜を硬くして、筋膜が硬くなるとストレスも増加します。
この悪循環に多くの人が陥っていると言われています。
患者さんと接していると、ストレスが筋膜に及ぼす影響がはっきりわかる部位があります。
それは『 顔 』『 首 』『 顎(頬)』『 お腹 』です。
これらは姿勢にも現れ、組織の硬さ、抵抗、制限という形で感じることができます。
『使いすぎ』
筋膜の潤いと健康を保つには、動くことがとても大切です。
しかし、同じ動作をなんども繰り返すこと(使いすぎ)は、筋膜のトラブルにつながる可能性があります。
使いすぎは動くことだけではなく、動かない(長い時間同じ姿勢でいる)ことも同じ意味になります。
参考文献「FREE YOUR FASCIA」
筋膜を不健康にする悪者 その① 『運動不足』
健康な筋膜には、制限のない滑りながら動く運動性があります。
そのおかげで、私たちは痛みなく自由に動くことができています。
しかし、筋膜が不健康になる(滑りながら動く運動性が制限される)と、痛みや運動制限を伴うようになります。
知らず知らずのうちに筋膜を不健康にする『悪者リスト』をご紹介します。
その① 『運動不足』
その①『運動不足(動きが少ない)』
私たちの祖先は毎日何時間も歩いたり走ったり、物を持ち上げたり投げたり、体を曲げたり伸ばしたりしていました。
ところが、現代のほとんどの人は毎日何時間もパソコンの前に座り、毎日同じような限られた動作を繰り返しています。
残念なことに、筋膜ほど『使うか、失うか』という決まり文句が当てはまるものはありません。
なぜなら、筋膜は動かないと乾燥して硬くなり、ベタついてしまうからです。
運動不足は筋膜を不健康にするリストの第1位であり、筋膜にとっては最悪の事態なのです。
2002年におこなわれた、ラットの体の一部を3週間固定した研究の結果は衝撃的でした。
筋膜の綺麗な網目は、太くもつれて艶がなくなり、コラーゲン線維があらゆる方向に過剰に走っていました。
<電子顕微鏡写真>
Daniel Fenster(2020)『Free Your Fascia』Hay House Inc
A:固定する前のコラーゲン構造
B:3週間固定した後に撮影した同じ領域(コラーゲン線維の変化と崩壊が起こっている)
コラーゲン線維は、適切な刺激がなければ「きれいな庭」ではなく「雑草」のように成長します。
教訓 ①
「運動は化粧水」であり、毎日さまざまな方向に動く必要があります。
教訓 ②
運動した後は、水分の補給と休息が必要です。
定期的に身体を動かしていると、筋膜にかかる圧力によって水分が吸い上げられます。
そして、筋膜を休めると新鮮な水分が筋膜に送り込まれます。
この『運動と休息のサイクル』が、筋膜をリフレッシュさせて滑りやすさを保つ秘訣です。
【 運動する時のヒント】
① 可動域(動かせる範囲)をフルに使いましょう!
② 色々な運動を混ぜましょう!(歩行とラジオ体操など)
③ 左右を同じように、ゆっくり大きく動かしましょう!
※ 筋トレやランニングなどの激しい運動は必要ありません。
参考文献「FREE YOUR FASCIA」
腰痛のナゼとナゾ “ 治らない “ を考える
海外の研究では、スイスからの報告に、画像診断を受けた健常者の76%に無症状の椎間板ヘルニアがみられたという研究があります。
また、フィンランドの研究によると、腰痛経験者の約半数が、MRIによる画像検査で椎間板に変性がみられない正常の所見だったことがわかり、「腰痛と椎間板変性との間には関連性がない」と結論づけています。
さらに米国からは20歳から80歳までの腰痛や脚の痛みを経験したことがない人々の画像診断の結果、21〜36%に椎間板ヘルニアが、50〜79%に椎間板膨隆が、34〜93%に椎間板変性がみられたと報告されるなど、従来のように「ヘルニアの存在 = 腰痛の原因」とする考え方を否定する研究結果が相次いでいます。
「腰痛のナゼとナゾ “治らない“を考える」より
著者:福島県立医科大学 理事長兼学長 菊池臣一
出版社:メディカルトリビューン
トリガーポイントの発生から痛みが慢性化するしくみ
【 トリガーポイントの発生 】
筋膜のトラブルが発生すると、その領域の血液の流れが阻害され『酸素欠乏』になります。
酸素欠乏が起きると、血液中の血漿から『ブラジキニン』などの発痛物質が生成され、知覚神経(C線維)の先端にある『ポリモーダル受容器』に取り込まれて『痛み』を感じます。
このような状態から発生した圧痛点(痛みの発信源)を『トリガーポイント』と呼びます。
【 痛みの慢性化(悪循環)】
『トリガーポイント』からの痛み信号を捉えた『脳と脊髄』が、反射的に交感神経を働かせます。
その結果、トリガーポイント周辺の『筋肉と血管の収縮』が起こり、再び酸素欠乏が発生して発痛物質が生成されるという『痛みの慢性化(悪循環)』が起こります。
その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている ! その②
日本は痛みの治療に関して、先進国の中ではもっとも遅れていて、患者中心の医療は、厚生労働省の調べによると、世界で遅れている科学技術のワースト10に入っていると報告されています。
なんと10〜20年もの遅れがあると言われているのです。
海外では、椎間板ヘルニアの手術はほとんど行われなくなってしまったそうです。
現在の整形外科の診断や治療法は、「痛みの生理学」の昔の言い伝えによるものなのです。
こうした古い理論と発想で痛みをとろうとしても、痛みはなくなりません。
そのことを知らない医師に治療を受けていることが、みなさんを苦しめている慢性痛が治らない、根本の理由なのです。
「その腰・肩・ひざの痛み治療はまちがっている!」より
著者:医師、医学博士 加茂 淳
出版社:廣済堂出版