そよ風 note

2023-11-04 18:00:00

腰痛と腹筋 その② 筋力について

MVC(Maximum Voluntary Contraction)とは、人が最大努力で発揮する時の筋力(最大随意収縮)です。

現在わかっていることは、『腰痛の結果として、体幹の筋力が十分に発揮できなくなる可能性がある』ということだけですが、ここからも以下の『神話(仮説)』が誕生します。 

1)体幹筋の低下が、腰痛につながる可能性がある。

2)体幹の筋力を高めると、腰痛が軽減される。

では、脊椎を安定させるためには、体幹の筋肉はどのくらい収縮する必要があるのでしょうか?

 

その答えは『ほとんど必要ではない』ようです。

 

 

実は、立っている(立位)時や歩いている時、体幹の筋肉はほとんど活動しておらず、立位では深部脊柱起立筋、腰方形筋(背中や腰の筋肉)は事実上、活動していないようです。

立位では体幹の屈筋(身体の前面の筋肉)と伸筋(身体の後面の筋肉)の非常に低いレベル(1%未満のMVC)の収縮によって安定化が達成され、約15kgの物を持ち上げる際でもMVCはわずか1.5%増加するだけです。

このように収縮レベルが低いということは、筋力の低下が脊椎の安定化にとって問題にならないことを示しています。

 

機能的な動作に必要な収縮がこのような低いレベルであるにも関わらず、なぜ筋力エクササイズをすすめるのでしょうか? 

ほとんどの人は、このような低いレベルの活動をコントロールすることは不可能であり、意識することもできません。

たとえ意識できると思っていても、安定化に必要なレベルをはるかに超えた収縮が起こっているはずです。

日常生活やスポーツ活動において、ほかのすべての筋肉から独立して動作する『コア(体幹筋)群』が存在するかは疑問です。

  

・このような分類は解剖学的なものであり、機能的な意味はありません。

・いかなる運動も、筋肉の使用範囲は広範囲におよび、全身に影響します。

・特定の筋肉を、意識的に収縮させることは不可能です。

(例えば、腹横筋だけを収縮させることなどできません)

手を口に持っていく場合、脳は大胸筋や上腕二頭筋を収縮させることよりも、手を口に持っていくと「考える」のです。 

 

体幹エクササイズと一般的なエクササイズを比較した研究では、どちらのアプローチも同じように効果的であることが証明されていますが、これは脊椎の安定化による効果よりも、運動が患者さんにもたらす『ポジティブな効果』によるものである、ということです。

現在では、患者さん自身が好む運動やより楽しめる運動を提供することが推奨されています。

もちろん、体幹エクササイズでも構いませんが、ほかの運動と同程度の効果しかないことを伝える必要があると、論文の著者は言っています。

 

 

その③ 妊娠中と出産後

2023-11-04 18:00:00

腰痛と腹筋 その① 腹筋神話の誕生

『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』というのは常識すぎて、腰痛ではない人も知っているかもしれませんが

 

『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えるのはやめましょう!』と、私は患者さんにお話しています。

 

 

以下の論文は『腰痛の改善と予防のために、腹筋を鍛えましょう!』という、体幹安定性(コア・スタビリティ)の原理が、腰痛に対してどの程度通用するのかを明らかにしています。

  

『 The myth of core stability(体幹安定性の神話)』

https://www.cpdo.net/Lederman_The_myth_of_core_stability.pdf 

 

著者の Eyal Lederman 教授 (https://www.doctorlederman.com、理学療法の博士であり、世界的に有名なオステオパス(オステオパシーを実践している治療家)です。

この論文は、2007年の発表以降、多くの治療家から支持されています。

 

その内容を、以下の4つに分けてご紹介します。

その① 腹筋神話の誕生

その② 筋力について

その③ 妊娠中と出産後

その④『運動療法で腰痛を改善する』という考え方が問題である理由

 

 参考になさってください。

 

 

その① 腹筋神話の誕生

『体幹の安定性(コア・スタビリティ)』という原理は、1990年代後半に登場し、ケガ予防のためのトレーニングや腰痛に対するリハビリテーションとして広く受け入れられました。

腰痛の患者さんにおいては、腕や脚を素早く動かす際に、体幹筋のタイミングが無症状の人よりも遅れることを示した研究から派生しました。

 

そして、さまざまな影響と相まって、体幹トレーニングに蔓延する以下の『神話(仮説)』が誕生します。

1)脊椎を安定させるためには、特定の筋肉(※特に腹横筋)がより重要である。

2)腹筋が弱いと腰痛になる。

3)腹筋や体幹の筋肉を鍛えると、腰痛が軽減される。

4)他の筋肉とは別に働く、ユニークな「コア(体幹)」筋群が存在する。

5)強い体幹は、ケガを防ぐ。

6)脊椎の安定性と腰痛には関係がある。

※腹横筋とは:腹筋(総称)の1つ。このほかに外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋がある。

 

人の脊椎は不安定な構造なので、さらなる安定化は体幹筋の共収縮(さまざまな筋肉が共に収縮すること)によってもたらされることは間違いありませんが、その中でも特に注目されている筋肉が『腹横筋』です。

この筋肉は、体幹を安定させるための主要な筋肉であると信じられています。

その一方現在では、体幹のさまざまな筋肉が脊椎の安定性に寄与しており、その作用はさまざまな動作に応じて変化することも明らかになっています。

 

腹横筋は、直立姿勢の安定性に寄与していますが、その機能は腹壁(お腹の壁)を構成する他のすべての筋肉との相乗効果であり、それ以外の働きもしています。

例えば、発声や呼吸、排便や嘔吐などのために腹腔内(お腹の中)の圧力をコントロールしたり、内臓が飛び出すのを防いだりしていま

 

Gray's Anatomy(解剖の教科書) (36th edition 1980, page 555) によると、『腹横筋がない、または内腹斜筋と融合しているのは正常な変異である』とのことです。

このような人がどのように体幹を安定させているのか、腰痛に悩まされることが多いのか、興味深いところです。

 

その② 筋力について

2023-10-31 21:00:00

筋膜は『スーパーマン』

海外の筋膜の専門家は、筋膜を『スーパーマン』に例えます。

一見、ただのクラーク・ケントかと思いきや、その役割が『スーパーヒーロー』だからです。

実際、筋膜は単なる「梱包材」ではなく、心臓や脳、肺と同じくらい大きな役割を果たしています。 

 

<筋膜の8つの大きな役割>

 

 

その①:身体の各部分が、互いの上下を、そして周りを滑ることができる。

歩いたり、走ったり、あらゆる運動をするとき、スムーズに動けるのはなぜでしょうか?

それは、動くときに筋膜の層が滑るからです。

実際、筋膜が健康であれば、その長さの75パーセントまで滑ることができますが、筋膜が健康でなければ、滑りが悪く(スムーズに動けなく)なってしまいます。

 

その②:すべてのものを所定の位置に固定する。

筋膜は、臓器、骨、筋肉、血管などを固定して、あるべき場所にとどまらせます。

もし筋膜がなかったら、206個の骨はただの骨の山になり、臓器は無差別に集まることになります。

 

その③:水分を保持し、移動させる。

筋膜が水を蓄え、全身に運んでいます。

蜘蛛の巣を伝う露のように、筋膜のコラーゲンを水滴が伝っています。

 

その④体全体の通信ネットワーク。

筋膜は、身体のあらゆる部位に、あなたの位置や動き、体内環境に関する情報を常に送っています。

筋膜には筋肉の10倍以上の感覚神経終末(痛みを感じるセンサーなど)があり、身体で最も強力な感覚器官のひとつです。

 

その⑤身体のあらゆる部分と他のあらゆる部分をつないでいる。

筋膜をフィットしたベッドシーツに見立ててください。

シーツの片隅を引っ張ると、シーツのあらゆる部分が動きます。

たとえば私たちの身体では、足首を動かすと、太ももの裏側にある筋膜が滑ることがわかっています。

また、脚を伸ばすと、首の筋膜に影響を与え、首を動かす能力が高まります。

※ 私が『身体全体』を触診するのは、このような筋膜の繋がり(筋膜連鎖)の影響を確認するためです。

 

その⑥:『テンセグリティー』を生み出す。

宇宙飛行士が重力のない宇宙空間で逆さまになっても、骨や内臓がずれないのはなぜでしょうか?

それは、人体が『テンセグリティー』構造だからです。

 

テンセグリティー その①

 

テンセグリティーは、内部で(圧縮)力を発生させて、すべてを所定の位置に吊り下げます。

事実上、骨や内臓などは筋膜の中で浮いているのです。

骨、臓器、筋肉は、筋膜によって固定されていて、筋膜は身体の内部を支えるインフラとして機能しています。

筋膜は、私たちの身体に加わった物理的なストレスを吸収して、身体全体に分散させています。

 

その⑦:リンパの流れを促進する。

リンパ系は、全身に ※ 約20万キロ も張り巡らされた管で構成されています。

※ 血管の2倍、地球5周分の長さです。心臓から出た血液は約30秒ほどで全身を駆け巡りますが、リンパは8〜12時間かけて全身を1周します。

これらの管は、組織からリンパ節へと体液(リンパ)を運び、リンパ節ではリンパから毒素、バクテリア、がん細胞、その他の「ゴミ」をろ過し、浄化された体液を血流へと送り返します。

筋膜は、あなたが動くときに、リンパをこのシステムに押し流すことで役立っています。

つまり、筋膜が健康であればあるほど、リンパ系の働きは良くなるのです。

 

その⑧:ストレスに反応する。

筋膜は、感情的なストレスによって収縮します。

そのストレスが筋膜に及ぼす影響がはっきり現れるのは『顔・首・顎・お腹』です。

その結果は『表情や姿勢』に現れ、『肩こり、頭痛、腰痛、顎関節症』などの症状を自覚します。

そして、姿勢と筋膜 に繋がります。

私が『顔・首・顎・お腹』を触診するのは、この影響を確認するためです。

 

現在、世界中の何千人もの医師やセラピストが、痛みを和らげ、パフォーマンスを高め、生活を向上させるために筋膜をターゲットにしています。

筋膜は、身体のあらゆる部分とつながり、相互作用しています。

したがって、筋膜を治療することは、他の構造にも影響を与えることになるのです。   

2023-10-21 18:00:00

姿勢と筋膜

 

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肩こりや腰痛をはじめ慢性的な痛みでお困りの方は、① のような(顎を引いて胸を張った)姿勢を取るのがキツくなってきます。

 

気がつくと、② のような(頭・顎が前に出た前傾)姿勢になっています。 

 

時には ② のような姿勢を取っても問題ありませんが、① の姿勢がキツくなってくると少々問題です。

 

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ところで。

 

スピードスケートの選手が着るウェアは、滑走中の前傾姿勢でジャストフィットするように設計されているため、真っ直ぐに起き上がると突っ張るようにできているそうです。(ゴール後、すぐに頭の部分を脱ぐのは真っ直ぐに起き上がるためだそうです)

 

慢性的な痛みや猫背のような姿勢がなかなか改善しない一因は、ボディスーツである筋膜が『スピードスケートのウェアのように前傾姿勢を保ってしまっているから』なのです。

 

身体のあちこちに発生した筋膜の問題を見逃すと、痛みも猫背もいつまでも変わらないばかりか、その姿勢に順応するように股関節や膝関節も軽く曲がった(完全に伸びきらない)状態になっていきます。

 

下のイラストでも、① は ② に比べ、股関節と膝は軽く曲がっています。

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このまま放置すると、脚の付け根や膝まわりにも痛みを感じやすくなってしまいます。(その逆も然りです)

 

※ これまでにもたくさんの『膝(脚)』をみてきましたが、右の膝が軽く曲がっている(完全に伸び切らない)方がとても多いです。(症状や利手に関わらずほぼ右脚なのですが、なぜ右なのかはわかりません)

 

私たちの身体も、スピードスケートのウェアのように全身が筋膜で繋がっています。

 

そして。

 

ウェアの頭の部分を脱ぐと起き上がりやすくなるのと同じように、私たちの身体でも、ある部位の柔軟性や可動性が回復すると、その影響を受けていた離れた部位の状態も改善します。

 

これが、筋膜の連鎖(繋がり)です。

 

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姿勢は結果であって原因ではありませんが、『どこに筋膜の問題がありますよ』と教えてくれます。

 

① のような姿勢がキツくない方でも肩こりや腰痛になることはありますが、② の方に比べれば、トリガーポイントの数は少なく施術する範囲も狭いでしょう。

 

 

2023-10-13 12:00:00

椎間板ヘルニアとMRI

MRIの出現により、脊椎の異常診断能力は向上した。只、無症候例に高頻度な形態学的異常も少なくないことも明らかになった。最近では腰痛出現後に撮影されたMRI所見が、腰痛を説明するような新たな所見である可能性は低いことが指摘されている。

菊池臣一編著『腰痛 第2版』より(医学書院 2014)

 

 

 

椎間板ヘルニアが画像で認められても、それが必ずしも痛みを起こしているわけではないことが明らかになってきているのです。

私は巨大なヘルニアを持っていますが、腰痛とは無縁の生活を送っているのです。私だけ特別に腰痛を起こさないわけではありません。

菊池臣一著『腰痛のナゼとナゾ』より(メディカルトリビューン 2011)

 

 

 

慢性腰痛も脚のしびれもない

しまだのMRI 

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 私もヘルニアを持っていますが、慢性腰痛ではありません。 

レントゲン同様、専門医にこの画像を見せても、腰痛と脚のしびれの有無はわかりません。

 

以下は https://www.painscience.com より
 

For many years now, MRI scans have been the ultimate in futuristic medicine. But while these machines are miraculous in some ways, they can be worse than useless for diagnosing low back pain.

MRIは未来の医療と言われて久しい。この機械はある意味では奇跡的なものですが、腰痛の診断には役に立たないこともあります。

 

Many people with no pain have all kinds of things “wrong” with their backs, and vice versa. Many problems revealed by scans that seem like “obvious” problems are not.And so the diagnosis and treatment often goes spinning off in the wrong direction.

痛みのない人の中には、脊椎に様々な問題を抱えている人が多く、その逆もまた然りです。スキャンによって明らかになったことの多くは、一見「明らかな」問題のように見えますが、そうではありません。そのため、診断や治療が間違った方向に空回りしてしまうことが多いのです。

 

Fifty-six patients with uncomplicated lumbar disc prolapse were carefully assessed, finding almost no correlation at all between symptoms and the size and position of the bulge.

合併症のない腰椎椎間板脱出(ヘルニア)の患者56人を注意深く評価したところ、症状と膨隆の大きさや位置との間にほとんど相関関係は見られませんでした。

 

There is no direct correlation between the size or position of the disc prolapse and a patient's symptoms. The symptoms experienced by patients should be the primary concern in deciding to perform discectomy.

椎間板脱出(ヘルニア)の大きさや位置と患者の症状には直接的な相関関係はありません。椎間板摘出術を行うかどうかは、患者が経験する症状を第一に考えるべきです。