そよ風 note
画像診断の価値と課題
ー 画像診断の価値と課題 ー
⚫︎ 脊椎画像検査は過剰使用
約1/4は不適切
⚫︎ 椎間関節炎は腰痛とは無関係
有痛性の椎間関節を同定できる画像検査はない
⚫︎ 不適切な画像検査と外科的治療や注射の実施率上昇には関連あり
⚫︎ プライマリ・ケア医に不要な検査
1番目に、発症6週間以内の腰痛に対する画像検査
(神経障害や骨髄炎などが疑われる場合は除く)
⚫︎ M R I
・腰痛と椎間板変性との間に関連性なし
腰痛経験者の47%は正常なMRI
・有痛性のヘルニアと無症状のヘルニアでは緩和時間と椎間板変性の程度が異なる
・MRIの画像で新しい腰痛エピソードの説明がつくことは稀
⚫︎ 腰痛患者のX線写真、最新の画像検査が患者のアウトカム(結果)の改善に結びつかない
(米国内科学会の声明)
⚫︎ 最新の画像検査の相当多くが患者の治療に限定的な価値しかない
⚫︎ 画像装置を自分で持つ医師による画像検査は、治療期間や費用のうえで利点に関連しない
⚫︎ 画像装置を備えた医師は、患者に画像検査を受けさせる可能性が高い
⚫︎ MRI撮像はその後の治療に大きく影響する
⚫︎ MRIを所有する医師は患者に脊椎手術を受けさせることが多い
◻︎ 参考文献 ◻︎
「腰痛」 第2版 医学書院
画像検査で 「わかること」 と 「わからないこと」
3ヶ月ほど前から、左腰 〜 左脚の痛み(歩行困難・10分も歩くと脚が痛くなる)でお困りの60歳代の女性が山梨から来られている。
症状の始まりは去年の春。
ある日突然腰痛がひどくなり整形外科を受診したところ、レントゲン検査の結果「脊椎すべり症 」 と診断されたそうだ。
脊椎すべり症は、レントゲンを見ればすぐにわかりますが、それがいつからすべっているのか(腰痛がひどくなった日なのか、何年も前からなのか)はわかりません。
それはすべりに限らず、背骨の変形や椎間板の狭小化、ヘルニアや狭窄も同じです。
圧迫骨折でさえ、わかりにくいと言われています。
その後はしばらく小康状態だったが、今年の1月に再び腰の痛みがひどくなり、今回は歩くことも困難になって整形外科を受診したところ、今度は「狭窄症」と「すべり症」と診断されたそうだ。
その後はペインクリニックにも通うが最後に受診した整形外科では、首(?)と 腰 の 「レントゲン と C T(?)」と 「筋電図(?)」 の結果、『あなたは首と腰が悪いが、まず首を手術して様子をみましょう』と言われ、友人(私の患者さん)に話したところ、私を紹介されたとのことだった。
しまだに来られた時は、10分も歩くと脚が痛くて歩行も困難だったが
・9月13日にいただいたメッセージ
1ヶ月後には、10,000歩(2時間近く)も歩けるようになっている。
・10月13日にいただいたメッセージ
メッセージは患者さんの許可を得て掲載
この女性が、腰痛と脚の痛みでほとんど出歩けなかったことを知る周りの人は、この女性がスタスタ歩いているとびっくりして声をかけてくるという。
レントゲンやMRIは病理所見(骨折や腫瘍など)を診るもので、痛みやしびれ(患者さんが自覚する症状)を読影できるものではありません。
レントゲンやMRIで背骨の変形や椎間板の狭小化、すべりや分離、ヘルニアや狭窄などが確認できたとしても、その人の症状(腰が痛いのか、脚がしびれているのか)はわからないのです。
「腰痛」第2版(医学書院)には、レントゲン(単純X線)写真について、以下のように書いてあります。
単純X線写真は、外来診療で最も用いられている画像である。しかし、単純X線写真は、非特異的腰痛の診断にはほとんど意味がない。
現時点での退行性疾患の診断における単純X線診断の位置付けは限定的なもので、感染性疾患などを含む脊椎炎、骨折、あるいは腫瘍のような重篤な病態を否定するためにあると言ってよい。
また
横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック 診療教授 の北原雅樹医師は、著書「日本の腰痛 誤診確率 80%」の中で
・痛み治療、特に腰痛の場合、レントゲンはほとんど意味がありません。レントゲン検査に意味があるのは、骨折などの場合です。
・欧米では交通事故のときなど、骨折などを調べるのに急を要する場合以外はレントゲンを撮ることはまずありません。
・急性、慢性を問わず、私は腰痛の患者さんのレントゲン写真は撮りません。意味がないからです。痛みはレントゲンには写りません。
・・・(もう一点、レントゲンによる被曝の問題もあります。)
・痛い人、痛くない人、1000人のレントゲン写真を撮って専門医に見せたとしても、この人には痛みがある、この人にはない、ということはわかりません。
と書かれている。
私の腰椎(L5/S1)にはヘルニアがありますが、慢性腰痛も脚のしびれもありません。
私は、自分の腰のMRIが見たかったので、嘘の症状(腰が痛くて右脚がしびれる)を告げてある病院を受診したとき
私のMRIを読影してくれた先生は (お忙しい中、申し訳ありませんでした・・・)
『椎間板ヘルニアですね』『坐骨神経痛ですね』と説明してくれたが
『あなた、本当は腰痛くないよね?』『脚もしびれてないよね?』とは言わなかった。
ということです。
腰痛にレントゲン検査が必要な時
ー 単純X線写真撮影の適用 ー
1.外傷後に高度な腰痛が発症
2.安静時における高度な腰痛や下肢痛
3.骨粗鬆症や転移性脊椎腫瘍などを疑わせる既往や症状を有るす場合
4.ステロイドの服用者、アルコール多飲者、および癌の既往例で、外傷がなく突然に下肢痛が発生した場合
5.撮影を希望する症例(過度に神経質な患者などでは単純X線撮影を行わないと、十分な診療を受けていないと誤解する可能性がある)
6.交通事故や労災で補償が関係している場合
7.強直性脊椎炎を疑わせる既往歴や理学的所見を有する症例(仙腸関節も撮影する)
8.脊椎所見から明かな脊椎変形が疑われる症例
9.高度な脊椎所見(著名な不撓性と可動域制限)や神経障害が認められる症例(転移性脊椎腫瘍を除外診断することが要求される)
10.原因不明の急激な体重減少
11.高い発熱(38℃以上)
◻︎ 参考文献 ◻︎
「腰痛」第2版 医学書院
危ない腰痛
危ない腰痛とは『重篤な疾患によって引き起こされた腰痛』です。
重篤な疾患とは、骨折や悪性腫瘍などの病状がいちじるしく重い『 F A C E T 』と呼ばれる疾患です。
重篤な疾患『 F A C E T 』と『 F A C E T 』の存在を示唆するサイン『レッド フラッグ 』を以下に示します。
『 F A C E T 』
F:Fracture|骨折
A:Aorta|大動脈解離・大動脈瘤破裂
C:Compression|脊髄圧迫症候群
E:Epidural abscess|硬膜外膿瘍・椎体炎
T:Tumor|腫瘍
『 レッド フラッグ 』
⚫︎ 馬尾(ばび)症候群の兆候 → C(脊髄圧迫症候群)
発症の確率は 0.04%(10,000人に4人)と言われています。
この症状の方が私のところに来られたことはありませんが、患者さんのご兄弟が馬尾症候群になったと聞いたことがあります。
ー 症状 ー
・膀胱直腸障害:「排尿したくても出ない(閉尿)または 自分の意思に反して、大・小便を漏らしてしまうことはありませんか?」
・サドル麻痺:「自転車に乗った時にサドルに当たる部分の感覚が麻痺していませんか?」
※ 馬尾症候群は上記の神経症状だけで、腰痛(痛み)を伴わないことがあります。
※ 馬尾症候群は『医学的緊急事態』ですので、緊急手術になることもあります。
⚫︎ 重大な外傷歴(全年齢が対象) → F(骨折)
高齢(骨粗鬆症)の方は、布団の上で尻餅をつくなどの軽微な外傷でも、背骨を圧迫骨折することがあるので注意が必要です。
尻餅をついてしばらく時間が経っても腰や背中の痛みが引かない時は、レントゲン検査を受けてください。
⚫︎ 安静にしていても軽快しない痛み → T(腫瘍) や E(硬膜外膿瘍・椎体炎)
「夜間の絶え間ない痛みや横になっていると痛みが悪化しませんか?」
がんや背骨(脊椎)の感染、内臓疾患の疑いもあります。
⚫︎ 胸背部痛 → A(大動脈解離・大動脈瘤破裂)
「胸(前側)に痛みはありませんか?」
大動脈の解離や瘤破裂、狭心症や心筋梗塞の疑いがあります。
⚫︎ がんの病歴や体重減少、食欲減退 → T (腫瘍)
「以前、がんになったことがありますか?」
「食欲はありますか(減っていませんか)?」
「体重が減っていませんか?」
(運動やダイエットをしていないのに、3ヶ月以内に体重が10%以上減っている)
がん(脊椎転移)の可能性もあります。
⚫︎ 長期間のステロイド剤(主に内服薬)の使用、免疫抑制剤の使用 → F(骨折) や E(硬膜外膿瘍・椎体炎)
ステロイド剤は骨粗鬆症になりやすいので「いつの間にか骨折(脊椎圧迫骨折)」を起こす可能性があります。
免疫抑制剤は免疫力を抑制する作用があるので、背骨(脊椎)に感染を生じる可能性があります。
⚫︎ 発熱 → T(腫瘍)
がんの患者さんは70%で発熱する(腫瘍熱)と言われています。
毎日、37.8℃以上の発熱がある、発熱が2週間以上続くなど
⚫︎ 20歳未満 または 55歳以上 → F A C E T すべて
上記のサイン『 レッド フラッグ 』があるときは、すぐに病院を受診してください。
ある医師(救急医)のブログには
・安静時痛の有無を重視している。
・ F A C E T のうち、A(大動脈解離や瘤)や E(腫瘍や椎体炎)であれば、安静時でも痛みがないということは考えにくい。
・安静時痛がある、という時点で筋骨格系の痛みと言えない可能性がある、何らかの画像検査をせざるを得ない状況だなと考えます。
と書いてありました。
膀胱がんによる腰痛
今から8年ほど前(山梨の施術室に)、膀胱がんによる腰痛の患者さん(60歳代・男性)が来られた。
男性は腰が痛いから横になっている・・・ということで奥様から
『主人の腰痛が(いくつか整形外科に行ったが)よくならないので、なんとかしてほしい』という連絡があり、すぐに来ていただいた。
入り口では前かがみの姿勢で入って来られ、施術室では膝に両手をついたまま座っているのも辛そうで、顔の汗が止まらなかった。
まさかと思いながらも話を伺うと『体重も落ちて食欲もない』『夜も痛くて眠れない』とのことだった。
(奥様から連絡をいただいた時に確認しなかったことを後悔する)
まさに『 レッド フラッグ 』です。
この腰痛は、私が施術することができない原因である可能性が高いので、すぐに総合病院へ行ってくださいと話し帰宅していただいた。
後日、奥様から『膀胱がんでした。そのまま入院しました』との連絡をいただいたが、医師からは『どうして、もっと早く来なかったんですか?!』と言われたとのこと。
でも、この男性は、腰が痛いから整形外科を受診したまでで・・・
膀胱がんで腰(骨盤内)に痛みを感じる時は、がんが進行していることが多いらしいです。
きっと、この男性もそうだったのでしょう。
その後しばらくして『無事退院した』との連絡をいただいき安心した。
腰痛患者さんの中でのがんの割合は、0.7%(1,000人に7人)程度と言われています。
程度は極めて低いですが、0%ではありません。
腰痛を引き起こす可能性があるのは、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がんなどです。
また、乳がん、肺がん、前立腺がんなどは、背骨(脊椎)への転移を起こしやすいと言われています。