そよ風 note
トリガーポイントと拘縮ができるしくみ
トリガーポイントと拘縮(こうしゅく)の形成には、筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が高い状態を持続することが深く関係しています。
拘縮とは、通常の筋肉の収縮とは異なり、脳からの電気信号なしで持続的に生じますが、可逆的な(元の状態に戻り得る)収縮です。
これは、筋肉の収縮と弛緩におけるカルシウムイオンの役割が、機能不全に陥ることで引き起こされます。
正常な筋肉の収縮と弛緩におけるカルシウムイオンの役割
脳から筋肉へ「収縮せよ」という指令(電気信号)が送られると、筋肉と神経がつながっているところ(神経筋接合部)からアセチルコリン(神経伝達物質)が放出され、最終的に、カルシウム貯蔵庫(筋小胞体)からカルシウムイオンが放出されます。
放出されたカルシウムイオンは、筋肉の線維を構成するアクチンフィラメントとミオシンフィラメントの間に滑り込み、両者の結合を促します。
この結合により、互いのフィラメントが引き寄せられて筋肉が収縮します。
収縮後は、カルシウムイオンが筋小胞体へと回収され、筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が低下し、筋肉は弛緩します。
トリガーポイントと拘縮ができるしくみ
筋肉の使いすぎやストレス、または損傷などによって筋肉が過剰に収縮すると、このプロセスに異常が生じて、以下のしくみでトリガーポイントと拘縮が形成されます。
1.アセチルコリンの過剰放出
筋肉の過剰な収縮により、神経筋接合部からアセチルコリンが過剰に放出されます。
2.筋小胞体からのカルシウムイオン過剰放出
過剰なアセチルコリンが刺激となり、筋小胞体から大量のカルシウムイオンが放出されます。
3.カルシウムの回収不全による筋肉の持続的な収縮
筋肉の細胞内のカルシウムイオン濃度が高止まりすると、カルシウムポンプの働き(回収)が追いつかなくなります。
この状態が続くと、アクチンとミオシンが離れられなくなり、持続的な収縮が生じます。
4.ATP不足とエネルギー危機
ATP(アデノシン三リン酸)とは、「筋肉の電池(ガソリン)」のようなものです。
筋肉の「収縮」と「弛緩」には、ATPがエネルギー源として使われます。
エネルギー危機とは、筋肉が収縮し続けることで局所の血流が悪化(虚血状態)し、筋肉が弛緩するために必要なエネルギー源(ATP)を十分に作り出せなくなることです。
5.悪循環の発生
ATPの不足はカルシウムポンプの働きをさらに低下させ、カルシウムイオンの回収を妨げます。
これによりカルシウムイオン濃度が高い状態が維持され、筋肉の持続的な収縮が続くという悪循環に陥り、トリガーポイントと拘縮が形成されます。
私の右肩痛からわかる 「トリガーポイントがある部位の特徴 」
先日、兄を誘って調布駅近くの「シミュレーションゴルフ」で、約2年ぶりにゴルフをしました。
いそいそと出かけたものの、久しぶりということで軽めに振っていたのですが、トップ(右肩外旋時)での軽い痛みと窮屈さを感じながら9ホールをプレーしました。
スコアと内容はいつも通りの “散々の結果" でしたが、それ以上に痛かったのは、数日後の早朝から始まった「目覚めるほどの右肩痛」でした。
右肩周囲を触診してみると、その痛みに関連すると思われる複数のトリガーポイントと筋・腱の障害が見つかりました。
どうやら、2年ぶりのゴルフが、潜在性のトリガーポイントを “活性化(活動性トリガーポイントへ変化)" させたようです。
中でも「トリガーポイントがある部位の特徴」が顕著だった、上腕二頭筋腱部への施術動画をご紹介します。
動画では「クロスファイバーストローク」と呼ばれる、クリニカルマッサージのテクニックを施術具でおこなっています。
この方法は、筋・腱などの線維組織(ファイバー)が増殖した部位に対して、交差(クロス)するように何度も往復(ストローク)刺激を与えます。
「目覚めるほどの痛み」とともに施術中の「響くような痛み」を自ら経験することで、患者さんが感じている「痛みの質や響き」を自身の体で理解することができます。
トリガーポイントがある部位は浮腫んでいるため、画像のように(私の場合はとてもわかりやすく・・・)盛り上がっています。
そして、施術具でその部位を横切ると、弦を弾いたような「跳ね上がり(スナッピング)」が確認できます。
「トリガーポイントの周囲は浮腫んでいる」ことを、あらためて身を持って確認できました。
また「跳ね上がり」も、トリガーポイントを施術する際によく見られる反応ですが、特にこの部位(私)は、わかりやすいです。
浮腫の範囲や跳ね上がり具合は、部位や症状の程度によって異なりますが、このような部位が施術の重要な対象となります。
これまで2回の施術をおこなった結果
朝の痛みは消失しましたが、筋・腱の障害はまだ残っているため、しばらく施術を継続します。
そしてまた “いそいそと" シミュレーションゴルフに行きたいと思います。
お腹から脚の付け根への施術
施術において、お腹(腹部)から脚の付け根(鼠径部)は、『前腰部(腰の前)』と呼ばれる重要な部位です。
前腰部には、姿勢を支える筋肉であるがゆえに、ぎっくり腰や慢性腰痛、股関節の痛み(トリガーポイント)や硬さ(筋拘縮)の原因になりやすい『腹筋群』や『腸腰筋(腸骨筋・大腰筋)』があります。
ー 姿勢を支える主要な筋肉(姿勢筋) ー
※ すべての姿勢筋に、トリガーポイントや筋拘縮が形成されやすいです。
腰痛や股関節の痛みを抱える多くの方に前腰部の施術が必要となりますが、デリケートな部位でもあるために見落とされやすい傾向にあります。
また、自覚症状がなくても、腰痛の経験や股関節の動きに制限がある方を調べてみると、隠れたトリガーポイントや筋拘縮が見つかることが多いです。
「トリガーポイント プレッシャー リリース」 について
『トリガーポイントプレッシャーリリース(TrP pressure release)』
(旧称:マイオスライドリリース)
『必要な部位に、必要な圧を、必要な時間』── 確実に届ける施術
トリガーポイント プレッシャー リリースは、トリガーポイントに対して持続的な圧迫(プレッシャー)を加えることで、痛みと筋・筋膜の緊張を解放(リリース)する施術法です。
一般的には、施術者の指で圧迫を加えますが、指で行う場合には以下のような限界があり、安定した効果を得ることができませんでした。
・施術者の指では接触する面積が狭く不安定なため、施術者のわずかの動きでトリガーポイントからずれてしまう
・トリガーポイントは「点」ではなく、一定のエリアを持つ「面」であるため、指先の面積ではトリガーポイント全体に均等な圧が届かない
・その圧は、施術者の指にも吸収されてしまうため、余計な圧が必要になる
『ステンレス製の施術具による安定したアプローチ』
しまだの施術では、この限界を解消するために作製したステンレス製の施術具を使用し、 400g〜1kgほどの圧を、30〜60秒間、じっくり・じんわり トリガーポイントにかけていきます。
トリガーポイントの状態によっては、1〜2分ほどかける場合もあります。
圧迫後は、痛みと筋・筋膜の緊張の変化を確認しながら、必要に応じて繰り返します。
トリガーポイントの位置や方向、筋筋膜の緊張度合いなどの情報が、施術具を介して私の手に伝わります。
『虚血性(きょけつせい)圧迫』が生み出す『液性の流動』
血管が収縮して血液の流れが悪くなっているトリガーポイントに対して、あえて圧をかけて一時的に血液に量を減少させる『虚血性圧迫』を行います。
30〜60秒間の圧迫後、その圧を解放することで、血液と(その影響を受けていた)リンパが一気に流れ出します。
この『液性の流動(物質が同じ場所にとどまらずに移動すること)』が促されることにより
・痛み物質(ブラジキニン)の排出
・リンパドレナージュ(老廃物や余分な水分の排出)
が起こり、痛みと筋・筋膜の緊張が解放され、体が軽い・動きやすいなど筋肉の機能も正常化していきます。
また、虚血性圧迫を行っているときは、過敏化したトリガーポイントほど、響くような「痛気持ちよさ」を感じるとともに、思いもしない部位への響きを感じるかもしれません。
脳で、この「痛気持ちよさ」を感じることにより『エンドルフィン』が放出されて、鎮痛作用が起こります。
エンドルフィンとは、『鎮痛、抗ストレス作用や多幸感などをもたらす脳内物質(幸せホルモン)』です。
『デリケートな部位のトリガーポイントにも対応』
・腰痛や背中の張りの原因となる『お腹(腹筋)』
・女性患者さんが訴えづらい『股関節(脚の付け根)まわりや臀部(坐骨下)』
など、施術者の手では対応することが難しい部位にも、安全かつ確実に対応します。
手では再現することができない、安定した持続的な圧迫が生み出す効果です。
慢性的な腰痛が改善しない、根本的な理由
先日、慢性的な腰痛でお悩みの60代の女性が来室されました。
これまで3つの整形外科を受診し、レントゲンやMRIの結果から「変形性腰椎症(加齢による背骨の変形)」「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」などと診断されたそうです。
医師からは「手術をするほどではない」と言われて安心はしたものの、痛み止めを飲んでも理学療法(電気や牽引)に通っても腰痛は一向に改善せず・・・半ばあきらめかけていたといいます。
そんな中、娘さんがしまだのHPをご覧になり、「お母さんは、これ(筋膜性疼痛症候群)だよ、ここだよ」と確信して来室されたとのことでした。
慢性的な腰痛が改善しない、根本的な理由
この女性のように、処方された薬を飲みながら理学療法に通っても、多くの慢性的な腰痛(に限らずですが・・・)は、なぜ改善しないのでしょうか?
その もっとも根本的な理由 を、ある本の中で、とてもわかりやすいたとえで説明している一節がありましたので、ご紹介します。
** 引用:『複雑な症状を理解するための トリガーポイント大事典』より **
現在の医療には、失望させられる場面に遭遇することがあります。
時には、無駄とさえ感じるかもしれません。
例えば、慢性的な腰痛がある人が医療に頼ろうと決心したとします。
広範囲にわたる高価な検査を受けた後、「どうやらあなたには慢性的な腰痛があるようです。しかし、40歳を過ぎれば、誰でも腰に何らかの病状があるものです。」と告げられるかもしれません。
この医療従事者は、MRIなどの画像により腰部の状態を観察し、目に見える病態が症状を引き起こしていると信じ切っています。
つまり、画像に映ったものを治療しようとしており、患者自身を見ようとしていません。
また、画像には映らない軟部組織には目を向けられません。
そのため、画像検査では正常に見えても、患者は痛みを感じています。
このように、画像検査などでわかる病態が患者の症状を引き起こしているとは限りません。
これは、電話の写真を見ればそれが電話だということがわかりますが、写真からはその電話が鳴っているかどうかはわからないことと同じです。
電話そのものをよく観察しなくてはならないのです。
出典:『複雑な症状を理解するための トリガーポイント大事典』
著:Devin J. Starlanyl /John Sharkey
監訳:伊藤和憲
翻訳:皆川陽一・皆川智美
緑書房 2017年
『電話の写真を見ればそれが電話だということがわかりますが、写真からはその電話が鳴っているかどうかはわからないことと同じ』ように
『レントゲンやMRIなどの画像を見れば背骨の変化やヘルニア、脊柱管が狭窄しているということがわかりますが、画像からはその患者さんが痛みを感じているかどうかはわからない』のです。
ですので。
私たちは、患者さんの 痛みストーリー を伺いながら身体をよく観察(触診)して、画像には映らない、患者さんが痛みを感じる原因となる軟部組織(筋・筋膜)の問題 『トリガーポイント』を探し出さなくてはならないのです。
施術後、女性は「希望がみえた」と笑顔で帰宅されました。
これまでに5回の施術を受けていただきましたが、「腰の痛みがとても楽になった」と施術者冥利に尽きる言葉もいただきました。
私たちが道案内を間違わなければ、多くの患者さんは希望する結果に辿り着くことができます。
けれど、もしも間違った道を案内してしまえば、行き止まりか、時には引き返すことのできない結果に辿り着いてしまいます。






